G-CSF は安全?
2000年4月に認可された末梢血幹細胞移植ではG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を健康なドナーに注射しています。そのG-CSFの安全性については以前も述べました(鹿児島市医報 第42巻第10号,通巻500号,74-75ページ,2003年)。本当にG-CSFは健康な人にとって安全でしょうか? 最新の情報から再度検証してみます。
G-CSF投与に以下の場合があります。1.末梢血幹細胞採取の目的で健康人に投与。2.抗がん剤投与後または造血幹細胞移植後の好中球回復促進のため。3.抗がん剤の効果を増強する。
白血病を誘導する可能性は?
まず,1.の様な場合,健康な人にG-CSFを投与して直ぐに白血病をひきおこすことはin vitroでは完全に否定されています。問題になるのはG-CSF投与後の長期観察後に白血病が出てこないか?という疑問です。これは世界的にもデータがありません。同種末梢血幹細胞ドナーフォローアップ事業が国内で計画されて今年で4年目です。この安全性に関する情報はいつも日本造血幹細胞移植学会のHPで見ることが可能です(文献1)。それによると,末梢血幹細胞移植ドナーの2例に提供から1年後に血液悪性疾患が発病したという報告がありました。しかし,その因果関係は否定されました。今後も,このような同種末梢血幹細胞ドナーフォローアップを続けていくことがG-CSFの有害性有無の監視になると思います。現在の結論としてはG-CSF投与で健康成人に直接的に白血病を誘導したという事実はありません。G-CSF投与後のドナーに間質性肺炎や静脈血栓症を合併した報告が最近ありました(文献1)。情報の集積が常に必要です。
白血病の生存率が上がる?
では,2.の抗がん剤投与後にG-CSFを投与するのは大丈夫でしょうか?もちろん,骨髄性白血病で白血病細胞が末梢血中に見られる場合にはG-CSFを投与することで明らかに白血病は悪化します。そこで,G-CSFの安全性と有効性を評価するためにG-CSF投与群120例と非投与群125例の比較試験が国内の多施設で行われました。急性骨髄性白血病に対して寛解導入療法後の末梢血中から白血病細胞が消えた時期にG-CSFを投与すると,好中球の回復を早め(12日と18日),好中球減少時の発熱日数(3日と4日)を少なくすることが明らかにされました。生存率は2群間で差を認めません(文献2,図1)。したがって,G-CSF投与によって生存率は不変ですが発熱日数が少なく好中球の回復がよいという利点があります。これは造血細胞移植でも同じ傾向があります。
G-CSF投与にpriming効果?
3.のようにG-CSFを用いて抗がん剤の効果を増強する試みがあります。白血病細胞が末梢血中にみられる時期から,G-CSFを抗がん剤と同時に投与した321例とG-CSFを使用しない319例との比較成績があります。中央値55カ月の観察による生存率は42%と33%でG-CSF使用群が良かったと報告されています(文献3,図2のB)。これはアイデアとしてはG-CSFの効果を逆に利用した意味のあるものです。
G-CSF投与後に悪性疾患?
一方,再生不良性貧血に1年間G-CSF投与後に骨髄異形成症候群が発症したとの報告があります(文献4)。その頻度は10.4%です。再生不良性貧血と骨髄異形成症候群との鑑別が困難であることが関係するかもしれません。再生不良性貧血では今後も経過を観察する必要があります。
文 献
1.日本造血細胞移植学会ホームページ
(:http://www.jshct.com/)
2.Usuki K et al. Efficacy of granulocyte colony stimulating factor in the treatment of acute myelogeneous leukemia: a multicentre randomized study. Br J Haematol 2002; 116: 103-112.
3.Lowenberg B et al. Effect of priming with G-CSF on the outcome of chemotherapy for acute myeloid leukemia. N Engl J Med 2003; 349: 743-752.
4.Bessho M et al. Multicenter prospective study of clonal complications in an adult aplastic anemia patients following recombinant human granulocyte colony stimulating factor administration. Int J Hematol. 2003 77: 152-158.
http://www.minc.ne.jp/kasii/502-3.htm