ノバントロン(ミトキサントロン)

ノバントロン(ミトキサントロン)

ノバントロンは抗癌剤の一つで、欧米では多発性硬化症(MS)の基本的な治療薬として広く使用されています。日本では急性白血病や悪性リンパ腫などに認可されていて市販されていますが、MSには認可されてはいません。当院では、すでに30例以上の患者様に投与しており、再発を抑制するなど良好な効果を挙げています。

期待しうる効果
免疫に関係する、リンパ球やマクロファージの機能を抑制することで、MSの再発頻度を抑制したり、神経障害の進行を抑制します。効果の発現までに6ヶ月以上かかります。病気の初期で、障害の程度の軽い患者で、より効果的であると言われています。

方法
初回は、体表面積あたり12mgのノバントロンを点滴します。この薬剤が血管外の漏れますと組織障害を起こしますので、血管がよほど太くない限り留置針を入れます。また、あらかじめ吐き気止めの注射を点滴のラインから静注します(針を刺すのは1回だけです)。以降、1ヶ月に1回ずつ合計3回点滴し、その後は3ヶ月ごとに(回数を追うごとに投与間隔が長くなる場合もあります)次第に薬剤の量を減らしながら点滴します。どのくらいの量をどの程度の間隔でどの程度の期間、点滴するかは一定ではありません。また、一生涯で投与できる最大量は体表面積あたり決まっています(欧米の体の大きな人で140mgと言われていますが、白血球の低下する程度も考慮して、体表面積あたりの量で投与しているものの、日本人では少なめがよいように思われますので、100mgを一応のめどにしています)。

副作用
自覚症状として最も多いのは、食欲低下や吐き気です。稀に、食欲低下が強い場合、投与間隔を空ける場合があります。血球減少、特に7から10日後頃に出現する白血球減少の頻度は高く、点滴後は週に2回採血をして変化を見ます。白血球が減少した場合、必要に応じてG-CSFという骨髄での白血球の産生を促す薬剤を投与します。ヨーロッパでの治療の初期から、心機能が低下することが問題とされてきました。このこともあって、総投与量が決められていますし、心機能のチェックが必要です。他の抗癌剤に比し軽度と言われますが、脱毛が目立つこともあります。その他、月経異常、免疫異常による肺炎(間質性肺炎)の報告もあります。

副作用の頻度
海外の報告では、ノバントロンを投与された多発性硬化症患者さんのうち、1378名中2名でうっ血性心不全に、779名中17名に症状までは現さない心機能低下が認められています。これらは主に投与された薬剤量によると言われており、生涯の総投与量を制限しています。

35歳以上の女性の14%が治療終了後も改善しない無月経となり、10%では薬剤中止後に回復する一過性の無月経をきたしたと報告されています。

生命にも関わる重要な副作用として、1378名中1名で急性白血病が認められています。これはノバントロンだけでなく、白血球が低下した際に使用する薬剤、G-CSFの副作用とも言われています。

副作用の対策
投与前に、心電図や心エコー、血球数や肝機能検査などの血液検査を行います。はじめから心臓の機能に異常があると治療を開始できません。治療直後は白血球が減少しますので、週に2回血液検査を行います。白血球数の低下により、次回の投与量を減量し、白血球の回復が悪い場合は投与間隔を延ばすこともあります。心機能が低下した場合、治療を直ちに中止します。

問題点
日本では、本剤は多発性硬化症への適応がないため、本剤の副作用に関連した後遺症が生じても公的な保証を得られません。本剤により多くの患者様で治療効果が認められていますが、全員に満足できる結果が得られているわけではなく、治療の効果を必ずしも保証もできません。それゆえ、治療内容と危険性を良く理解された上で、この治療法を選択するかどうかを判断していただきたいと思います。

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