穏和で優れた効果を持つフルダラとゼヴァリン

従来のサルベージ療法に比べ、穏和で優れた効果を持つフルダラとゼヴァリン
2つの新薬で大きく変わる悪性リンパ腫
監修:鵜池直邦 九州がんセンター血液内科部長
取材・文:柄川昭彦 (2009年05月号)

http://www.gsic.jp/cancer/cc_01/acd02/index.html

九州がんセンター 血液内科部長の鵜池直邦さん

悪性リンパ腫の中で最も患者さん数の多いB細胞腫瘍の治療は最近、大きな進歩を見せている。再発した場合に使用できる薬として、2007年にフルダラ(一般名フルダラビン)、2008年にゼヴァリン(一般名イブリツモマブチウキセタン)が承認されたからである。 この2つの新薬の治療開始から約1年が経過した今、どのように救いの道が開かれてきたのだろうか。

日本人に最も多いのはB細胞腫瘍
悪性リンパ腫は、リンパ球が悪性化する病気である。日本では高齢化に伴って増加する傾向にあり、現在、1年間に1万人ほどが発病している。

【中略】

[悪性リンパ腫の分類別の割合]
「ホジキンリンパ腫以外のB細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍を総称して、非ホジキンリンパ腫と言います。日本は欧米よりも非ホジキンリンパ腫の割合が多く、悪性リンパ腫全体の約9割を占めています。B細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍では、B細胞腫瘍のほうが多く、非ホジキンリンパ腫の6~7割を占めています。つまり、悪性リンパ腫の中で最も多いのがB細胞腫瘍ということになります」(鵜池さん)

B細胞型の非ホジキンリンパ腫の治療は、分子標的薬のリツキサン(一般名リツキシマブ)の登場によって大きく変わった。

リツキサンが日本で承認されたのは、2001年である。

「リツキサンは、B細胞腫瘍が特異的に持っているCD20という抗原に対する抗体です。体内のB細胞腫瘍を探し出して結合し、免疫の力で死滅させる働きをします。そのため、悪性リンパ腫の中でもB細胞腫瘍に対してしか効かないのです」(鵜池さん)

リツキサンが登場する以前は、化学療法のCHOP療法が行われていた。CHOP療法とは、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)を併用する多剤併用療法である。

「リツキサンの登場で、B細胞腫瘍の治療はリツキサンとCHOP療法を併用するR-CHOP療法が標準治療となりました。それによって、治療成績は明らかに向上しました。ところが、リツキサンはT細胞腫瘍にもNK細胞腫瘍にも効果がないので、これらのタイプに対する治療は、現在でもCHOP療法が用いられることが多いのです」(鵜池さん)

B細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍の治療成績を比較すると、もともとT/NK細胞腫瘍のほうが治療成績はよくなかったが、リツキサンが登場することで、さらに差が開いたことになる。

T/NK細胞腫瘍、ホジキンリンパ腫の治療は、リツキサンが使えないという点で一致している。

そのため、リツキサンが登場する以前と、治療法はあまり変わっていないそうだ。

再発した場合に使用できる薬として、2007年にフルダラ(一般名フルダラビン)、2008年にゼヴァリン(一般名イブリツモマブチウキセタン)が承認されたからである。これらの薬はどのような場面で使われるのだろうか。

「B細胞腫瘍は、前述のとおり、進行の速さによって、低悪性度リンパ腫と中高悪性度リンパ腫に分類されます。低悪性度であれば、R-CHOP療法で80~90パーセントは完全寛解(悪性の病巣がすべて消失したと考えられる状態)になります。中高悪性度の場合、完全寛解になる割合は、それより10~15ポイント低い程度です。がんの悪性度によって多少の違いはありますが、B細胞腫瘍であれば、過半数は完全寛解になるわけです」(鵜池さん)

完全寛解になっても、悪性化した細胞が完全になくなったとは限らない。そのまま再発しなければ治癒したことになるが、再発してくるケースが多いのだ。

「完全寛解になっても、低悪性度は9割程度再発します。中高悪性度では6~7割くらいです。低悪性度は進行が遅く、1度は薬がよく効くのですが、そのほとんどが再発してしまいます。低悪性度のほうが再発しにくいように思えますが、そうではないのです」(鵜池さん)

R-CHOP療法で完全寛解に至っても、そのうちの多くは再発してしまう。完全寛解から再発までの期間はさまざまだが、2~3年のことが多いそうだ。

「フルダラやゼヴァリンが登場する以前は、再発した場合には、R-CHOP療法より強い化学療法が行われてきました。サルベージ療法と呼ばれる、これまで使用していない抗がん剤の組み合わせによる多剤併用療法です」(鵜池さん)

サルベージ療法はうまくいけばもう1度完全寛解に持ち込めるが、この治療の副作用は大変強く、患者さんにとっては辛い治療になる。R-CHOP療法で抜けていた毛髪がようやく生えてきたのに、また抜けてしまう。吐き気も発熱もある、といった具合だ。うまく完全寛解に持ち込めたとしても、また再発する可能性が高く、再発までの期間も短くなるのが一般的だ。

「これまで苦労してきた再発後の治療は、フルダラやゼヴァリンが登場したことで、大きく変わりました。これらの薬は副作用が軽いのに加え、フルダラは内服薬なので外来治療が可能、ゼヴァリンはたった2回注射するだけなので治療期間が短いという特徴があります。サルベージ療法としての多剤併用療法に比べてはるかに楽な治療なのに、完全寛解になる率が高く、次の再発までの期間も長くなるのです」(鵜池さん)

悪性リンパ腫の治療は、この2つの新薬の登場で、大きく変わったのである。

中高悪性度の場合には幹細胞移植も考える
低悪性度の再発にはフルダラやゼヴァリンが使えるが、中高悪性度の再発は適応外である。そこで、中高悪性度は年齢、病期、全身状態などから判断する国際予後因子(IPI)によって、予後を推測し、それに応じた治療法を選択することになる。

「予後が悪いと判断できた場合、最初の完全寛解後、患者さんが65歳未満であれば、引き続き、造血幹細胞(赤血球・白血球・リンパ球など、血液細胞の供給源となる細胞)の自家移植(自分の幹細胞を採って凍結保存しておき、それを用いて移植をする方法)が行われるようになっています。現在、この治療の効果を確認するための臨床試験が進行中です」(鵜池さん)

国際予後因子が比較的よい場合には、最初の治療で完全寛解になったところで治療を中止。再発したらサルベージ療法を行い、完全寛解になった時点で自家移植を行うのが標準治療になっている。この治療は欧米で臨床試験が行われ、すでにエビデンス(根拠)があるという。

フルダラは内服薬なので外来治療が可能になる
さて、進歩が著しい低悪性度B細胞腫瘍の最新治療に話を進めることにしよう。フルダラは、体内に入ると細胞の中に入り込み、核の合成を阻害することで、がん化した細胞を死滅させる。その働きは他の多くの抗がん剤と同じだが、多くの抗がん剤が分裂期の細胞に効果を発揮するのに対し、フルダラは静止期の細胞に働きかける。そのため、進行の遅い低悪性度のB細胞腫瘍に効果を発揮するのである。

「フルダラは単独で使うよりも、リツキサンを併用するほうがよりよい効果を発揮します。また、経口薬なので、外来でも治療が可能です。5日間連続服用し、休薬期間をはさんで、1ヵ月後にまた5日連続で服用します。これを最大6コースまで繰り返します。つまり、外来治療が可能なのですが、治療期間は比較的長くなります」(鵜池さん)

副作用は、従来のサルベージ療法には比べものにならない。吐き気などの消化器症状が出ることがあるが、程度は軽い。問題になるのは、リツキサンと併用した場合、免疫抑制状態が起きることがある点だ。治療後数年間は、ウイルス感染や真菌感染に注意する必要があるという。

[ゼヴァリンによる抗腫瘍効果]
ゼヴァリン(注射液)はユニークな薬である。リツキサンのような抗体薬に、イットリウム90という放射性同位元素(放射能をもつ同位元素)を抱合させた構造になっている。抗体部分はリツキサンと同様に、B細胞腫瘍がもつ抗原、CD20をターゲットにして細胞に取りつく。そして、イットリウム90から出る放射線が悪性細胞を攻撃する。

「普通の放射線療法は体外から照射しますが、ゼヴァリンは体の中で悪性細胞に取りついて、放射線を照射します。この治療を放射免疫療法と呼ぶのですが、ゼヴァリンは日本で唯一の放射免疫療法剤です」(鵜池さん)

体の中に放射性物質を入れて大丈夫なのだろうか、と心配になる人もいるだろう。しかし、イットリウム90は半減期(放射性元素の半分が崩壊する期間)が64時間と短く、放射されるのがベータ線(放射線の一種)なので到達距離がきわめて短い。

そのため、主に悪性細胞だけを攻撃することになり、副作用はごく軽いのが特徴だ。脱毛や吐き気などで患者さんを苦しめることはない。気をつけなければならないのは血小板減少で、日本人の場合、投与後数週~8週の間に、ほとんどの患者さんに現れるという。必要に応じて輸血などで対処する必要がある場合もある。

また、ゼヴァリンは特殊な薬だけに、投与は慎重に行われる。投与前にイットリウム90の代わりにインジウム111という放射性同位元素を抱合させた抗体を注射し、体内のどこに集まるかを画像検査でチェックする。それがリンパ節に集まっていればいいが、骨髄や正常臓器に集まっていたら、危険な有害事象(副作用)が起こる可能性があるので、治療を中止しなければならない。

このため、ゼヴァリンによる治療を行うために、血液内科医、放射線科医、薬剤師が、そろって専門の研修を受ける必要がある。安全に治療を進めるために、このような措置がとられている。

「ゼヴァリンは検査、治療と、計2回の注射が必要ですが、それですべてが終了となります。患者さんにとって、実に楽な治療ですね」(鵜池さん)

フルダラとゼヴァリン、どちらがより優れているか
[ゼヴァリンによるRI標識抗体療法の効果]
フルダラとゼヴァリンは、従来のサルベージ療法と比べ、優れた治療成績を残している。

「当院のゼヴァリンの治療経験では、再発患者さんの3分の2は完全寛解に入り、部分寛解まで入れると8割以上の人に効果がありました」(鵜池さん)

2つの新薬による治療はまだ始まったばかりなので、本当の実力がわかってくるのはこれからになるが、治療を受けた患者さんたちからは、「入院などの長期の治療が必要ない」「副作用が軽い」などの点が喜ばれているという。フルダラとゼヴァリンを比較して、どちらがより優れているか、という点については、現在、「ゼヴァリンVSリツキサン+フルダラ」という国際第3相臨床試験が進行中で数年後には結論が出る予定だ。

また、フルダラとゼヴァリンをどのような患者さんに使えばいいのか、という使い分けの方法も、今後明らかになっていくだろう。

“穏和で優れた効果を持つフルダラとゼヴァリン” への4件の返信

  1. Unknown
    いつも情報有り難うございます(^O^)
    低悪性度リンパ腫患者には非常に有望な薬だと思います。ゼブァリンが使える施設がまだまだ少ないので早く導入施設が増えればいいなと願っております。
    良いお年をお迎え下さい
    来年も宜しくお願いします

  2. はし゜めまして
    御助言おねがいします
    58歳の夫です。濾胞性リンパ腫ステージⅣでRCHOPを8回受け寛解とまでなりましが、治療終了一年で再発ました。
    現在リツキサンとフルダラ投与で3週間が過ぎています。
    今回の治療に入る前に医師からの説明で、まずフルダラか点滴(薬剤名は知らされていません)を2回投与してゼブァリン、そしてあと2回…というお話でした。
    とうも医師は点滴をと考えておられたようですが、副作用に心臓への影響が大きいということで、夫はフルダラを選択、しかし首後ろ部分にレモンを半分に割った位の瘤があまり小さくはなっていない状態です。
    そこで来週いよいよ二回目の投薬にあたり心臓の負担のある点滴にスイッチするか否か…
    初発の治療終了後、夫は発病前よりも周りの者からも目を見張るほどの元気さで活動的にすごしておりましたので、心不全で突然の死とか少し歩いては休むとか酸素吸入しながらの生活などの副作用が出ると聞くとしり込みしてしまっています。
    長々と申し訳ありません、家族としてどのような選択の助言あるいは寄り添い方をすれば良いか…悩み疲れています。
    よろしくおねがいします。

  3. こんばんわ
    主治医の方とよく話されるのが最善と思いますが、こちらの勝手な解釈を書きますので、これをネタにでも、主治医の方とよく離してください。 また、セカンドオピニオンに行くのも良いと思います。 もしセカンドオピニオンを快く思わないような主治医であれば、即転院をお勧めします。

    以下、的外れかもしれませんが、感じたままです。

    お話をよく読んでみると、どうも初回のR-CHOPはアドレアシン(アドレアマイシン、点滴)抜きではなかったか、と思います。 アドレアシンは心臓に良くないので、再発時の治療のために、初回は使わないと言うお医者さんもおられるようです。 要するに1回しか使えないので、いつ使うのかの治療戦略の問題です。

    それで、主治医の方は、再発したので、取っておいたアドレアシンを含む治療をしようとされたのではないでしょうか。

    もし、このアドレアシンであれば、心臓に悪いと言っても、そんなに心配されるようなものでは無いと思います。

    また、フルダラでも問題ないと思いますが、ゼヴァリンと言うのが良くわかりません。 ゼヴァリンで治療できる病院は限られていますし、このタイミングで使用する病院は少ないと思います。 また、他の治療と併せてと言うのもあまり聞いたことがありません。

    いずれにしても、元気で活動的なのが良いです。 病院に縛り付けられずに、普通の生活が出来るのなら、余程変わった治療ならともかく、選択の中の治療であれば大差ないと思います。

    いずれは再発しますから、その時のことも考えておくべきです。 特に悪性リンパ腫は急激に悪くなるものではないので、病巣が残っておろうが、なにしようが、悪化せず自覚症状がなく、これで天寿を全うできれば、健康人と変わらないのではないでしょうか。

    また、首の後ろの瘤は病気とは関係ないと思います。 もしリンパ腫であれば(そんなに大きくはなりませんが)、リツキサンで激減するはずです。

    以上、思いついたままでですが、何かの参考にしてください。 頑張ってください。

  4. ありがとうございます
    前回のR=CHOPでアドレアシンは入っています。
    今回の点滴の薬剤名を医師に確認します。
    ほんとにありがとうございます。
    またお邪魔しますが、どうぞよろしくお願いします。

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