■ 期待される治療の可能性
堀田 indolentリンパ腫はかつてから治療をしてもしなくても予後は変わらないという考えが底流としてありました。ところが,最近,この領域で新しい動きが出てきています。すなわち抗体療法,免疫療法を含めた分子標的治療と,GVL効果を期待するallo-PBSCTです。
最初に,indolent typeのリンパ腫の概念にはどのような疾患単位が入るのかについてどうですか。
飛内 indolent lymphomaは大半がB細胞リンパ腫で,濾胞性リンパ腫,marginal zone Bリンパ腫の2つが代表的疾患です。マントル細胞リンパ腫はaggressive lymphomaとの境界領域的な疾患です。small lymphocytic lymphomaとlymphoplasmacytic lymphomaは比較的まれです。
臨床病態の点では,marginal zone Bリンパ腫と濾胞性リンパ腫は対称的な疾患です。marginal zone Bリンパ腫,特にMALTリンパ腫は病変が限局した症例が多く,節外臓器に発生するのに対し,濾胞性リンパ腫はリンパ節を病変の主体とし,かなりの率で骨髄浸潤を認め,進行期症例が多いことが特徴です。したがって,2つのindolent lymphomaは治療戦略が大きく異なります。MALTリンパ腫は個々の発生
する臓器によって特異的な局所療法が有効で,放射線治療や外科切除,胃の場合はヘリコバクター・ピロリの除菌療法があります。一方,濾胞性リンパ腫は?T,?U期症例は放射線治療が標準的で,III,Iv期症例は内科的な全身療法の対象になります。
堀田 森先生,病理の立場からlow grade lymphomaの治療を考えると,どういうふうに切り分けをしていったらいいとお考えですか。
森 私たちには臨床の先生と一緒にやっているスタディの情報しかありませんで,いま飛内先生が言われたことはそのとおりだと思って,納得しながら聞いていました。
理屈から言うと,濾胞性リンパ腫の発生場所は前B細胞レベルで生じる,つまり骨髄や骨髄に非常に近いいところでタネになる細胞が生じ,これが全身を回っていたわけです。そして,リンパ腺の中に入って分化して,germinal centerに止まって,それ以上はいけないからああいう塊ができると考えられています。一方,MALTリンパ腫は局所で発生していると思われます。
堀田 MALTリンパ腫に関しては同じ扱いで化学療法をやってしまうのはよくないかもしれませんね。
飛内 indolent lymphomaの治療選択のうえで注意しなければいけないのは,indolentリンパ腫はaggressiveリンパ腫より抗癌薬に感受性が低いことで,病変のコントロールには放射線治療のほうが有効です。局所にとどまるものについては放射線治療が標準的治療で,濾胞性リンパ腫,MALTリンパ腫とも限局した1,2期の症例が対象になります。国立がんセンター中央病院に紹介されてくる患者さんの中には,このような標準的治療が行われていないケースがけっこうあります。
堀田 いったん小さくなっても,それ以上は縮小しないとか,またすぐ出てきて,次には全身に広がっているようなかたちになりますね。
森 確かに濾胞性リンパ腫の経過を追っていると,ある時点で小型細胞よりなる腫瘍の中に大きい細胞が増えてきて,それは治療をすると元の小型細胞に戻る。だから,濾胞性リンパ腫という言葉だけでなく,どういう細胞が増えているかをきっちり書かなければいけない。