造血幹細胞移植の適応ガイドライン 2002年4月
1. ろ胞性リンパ腫 臨床成績
1) 化学療法の成績
濾胞性リンパ腫の約10~15%がⅠ期およびnon-bulky Ⅱ期の限局期症例であり、放射線照射による局所制御で10年のfailure-free survivalは50~60%、また全生存率は60~80%と長期間の疾患制御が可能であるが10%以上の症例は10年の寛解後も再発し、限局期といえども治癒は困難である5)。
しかし、10年生存率が50%以上であることから、限局期(早期)症例に対する造血幹細胞移植の適応はない。一方、Bulky Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の進行期症例では化学療法で腫瘍の縮小効果が得られるものの、化学療法は生存の延長には寄与せず、さらに、併用する薬剤をより強力なものにしても生存延長には寄与しないことが明らかとなっている6-8)。
後記するように最近CD20抗体が開発され、とくに抗がん剤との併用によりminimal residual disease(MRD)が消失する症例も認められることから、今後CD20抗体を含めた化学療法の効果を見極めた上で移植の適応を決める必要があろう。
2) 自家造血幹細胞移植の成績
この治療法により寛解期間の延長は認められるものの生存曲線はplateauにならず、1997年のBiermanらの100例の解析でも4年全生存率は65%であったが4年のfailure free survivalは44%で生存曲線も右肩下がりでplateauにならず、同様な成績はFreedmanらによっても報告され、すなわち末梢血・骨髄浸潤がきわめて頻繁に認められるろ胞性リンパ腫に対するpurgingをしない通常の自家移植では治癒が期待できる治療法として確立していないことが示された9,10)。
臨床研究の段階ではあるが、濾胞性リンパ腫に治癒が期待できる治療法としては自家造血幹細胞移植併用では、Dana Farber Cancer Instituteにおける抗B細胞抗体と補体を用いたex vivo purg-ing処理をした自家骨髄移植を併用した大量化学放射線療法がある。1991年にGribbenらが報告した時点で未処理の(PCR方で微少残存腫瘍が陽性の)群に比してex vivo purging処理処理群(PCR法で陰性群) の生存率の優位性が認められたが11)
、1999年にFreedmanらにより報告されたup-dateの報告ではex vivo purging処理群の8年生存率は83%でほぼplateauになっており、自家造血幹細胞移植片中のリンパ腫細胞をパージングによりPCR方レベルで陰性化すれば自家造血幹細胞移植併用の大量化学放射線療法で治癒が期待できることを示している12)。
一方、進行再発症例は、初発例に比べ予後が不良(数年以下)となるため、パージングによる自家造血幹細胞移植と同種移植は研究的治療法として妥当である。
3) キメラ型抗CD20抗体(rituximab、 リツキサン)の成績
米国において開発されたキメラ型抗CD20抗体(Rituximab:リツキサン)の再発または治療抵抗性の主に低悪性度リンパ腫を対象とした臨床試験の結果、単独4回投与における抗腫瘍効果は151例中奏効例が76例(CR9例+PR67例)と高率な奏効率が得られ、time to progressionの中央値は12.5ヶ月であった。薬物有害反応としては、ほとんどが軽度なもの(grade 2以下)で、何れも24時間以内に消失した。また、非血液毒性は第1回目の投与時に比べ、2~4回目の投与時には減少した。
末梢血中の腫瘍細胞数が5万/ml以上などの腫瘍量が多い症例では初回投与時にTNF aやIL-6の放出に伴う悪寒発熱、悪心嘔吐、血圧低下、呼吸困難などのcytokine-release syndromeが起きることが報告されており、注意が必要である14)。
日本における第Ⅱ相試験の結果でも、indolentリンパ腫(濾胞性など)34例中21例が有効(CR4例、PR17例)で奏効率は60.0%と高率であり、有害事象も米国での試験同様に軽微なものであった。
未治療症例を対象にしてRituximab単剤の4回反復投与の臨床第Ⅱ相試験が米国とフランスで実施され、それぞれ64%、69%と高い奏効率が報告されている15)。
抗CD20抗体はその作用機序が抗がん剤とまったく異なるために、抗がん剤との併用で抗腫瘍効果が高まることが期待される。そこで、非ホジキンリンパ腫に対する標準的治療法であるCHOP療法6サイクルとrituximab 375mg/m2 6回投与との併用が、低悪性度非ホジキンリンパ腫(濾胞性B細胞リンパ腫を含む) 38例を対象に実施された16)。その結果、奏効率100% (intention to treat analysisでは97%)で、追跡期間29ヶ月(中央値)で38例中28例が寛解を維持しているなどきわめて優れた抗腫瘍効果が認められ、また、併用により両薬剤の有害事象が増強する傾向はなかった。
特筆すべきはこの併用療法によりPCR法による微少残存腫瘍細胞(mininal residual disease: MRD)の消失した症例があり、従来の化学療法では治癒が望みにくいこの病型において治癒の可能性がでてきたことである。
低悪性度・濾胞性リンパ腫症例においてRituximab投与後の再発時に再投与しても奏効率40%(CR11%、PR30%) と有効性があり、重篤な有害事象の出現することは稀であると報告されている17)
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