夜にめまい。 血圧が低いからか、オンコビンの副作用か。
G-CSF は安全?
G-CSF は安全?
2000年4月に認可された末梢血幹細胞移植ではG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を健康なドナーに注射しています。そのG-CSFの安全性については以前も述べました(鹿児島市医報 第42巻第10号,通巻500号,74-75ページ,2003年)。本当にG-CSFは健康な人にとって安全でしょうか? 最新の情報から再度検証してみます。
G-CSF投与に以下の場合があります。1.末梢血幹細胞採取の目的で健康人に投与。2.抗がん剤投与後または造血幹細胞移植後の好中球回復促進のため。3.抗がん剤の効果を増強する。
白血病を誘導する可能性は?
まず,1.の様な場合,健康な人にG-CSFを投与して直ぐに白血病をひきおこすことはin vitroでは完全に否定されています。問題になるのはG-CSF投与後の長期観察後に白血病が出てこないか?という疑問です。これは世界的にもデータがありません。同種末梢血幹細胞ドナーフォローアップ事業が国内で計画されて今年で4年目です。この安全性に関する情報はいつも日本造血幹細胞移植学会のHPで見ることが可能です(文献1)。それによると,末梢血幹細胞移植ドナーの2例に提供から1年後に血液悪性疾患が発病したという報告がありました。しかし,その因果関係は否定されました。今後も,このような同種末梢血幹細胞ドナーフォローアップを続けていくことがG-CSFの有害性有無の監視になると思います。現在の結論としてはG-CSF投与で健康成人に直接的に白血病を誘導したという事実はありません。G-CSF投与後のドナーに間質性肺炎や静脈血栓症を合併した報告が最近ありました(文献1)。情報の集積が常に必要です。
白血病の生存率が上がる?
では,2.の抗がん剤投与後にG-CSFを投与するのは大丈夫でしょうか?もちろん,骨髄性白血病で白血病細胞が末梢血中に見られる場合にはG-CSFを投与することで明らかに白血病は悪化します。そこで,G-CSFの安全性と有効性を評価するためにG-CSF投与群120例と非投与群125例の比較試験が国内の多施設で行われました。急性骨髄性白血病に対して寛解導入療法後の末梢血中から白血病細胞が消えた時期にG-CSFを投与すると,好中球の回復を早め(12日と18日),好中球減少時の発熱日数(3日と4日)を少なくすることが明らかにされました。生存率は2群間で差を認めません(文献2,図1)。したがって,G-CSF投与によって生存率は不変ですが発熱日数が少なく好中球の回復がよいという利点があります。これは造血細胞移植でも同じ傾向があります。
G-CSF投与にpriming効果?
3.のようにG-CSFを用いて抗がん剤の効果を増強する試みがあります。白血病細胞が末梢血中にみられる時期から,G-CSFを抗がん剤と同時に投与した321例とG-CSFを使用しない319例との比較成績があります。中央値55カ月の観察による生存率は42%と33%でG-CSF使用群が良かったと報告されています(文献3,図2のB)。これはアイデアとしてはG-CSFの効果を逆に利用した意味のあるものです。
G-CSF投与後に悪性疾患?
一方,再生不良性貧血に1年間G-CSF投与後に骨髄異形成症候群が発症したとの報告があります(文献4)。その頻度は10.4%です。再生不良性貧血と骨髄異形成症候群との鑑別が困難であることが関係するかもしれません。再生不良性貧血では今後も経過を観察する必要があります。
文 献
1.日本造血細胞移植学会ホームページ
(:http://www.jshct.com/)
2.Usuki K et al. Efficacy of granulocyte colony stimulating factor in the treatment of acute myelogeneous leukemia: a multicentre randomized study. Br J Haematol 2002; 116: 103-112.
3.Lowenberg B et al. Effect of priming with G-CSF on the outcome of chemotherapy for acute myeloid leukemia. N Engl J Med 2003; 349: 743-752.
4.Bessho M et al. Multicenter prospective study of clonal complications in an adult aplastic anemia patients following recombinant human granulocyte colony stimulating factor administration. Int J Hematol. 2003 77: 152-158.
http://www.minc.ne.jp/kasii/502-3.htm
お寿司を食べられない?
お寿司を食べられない?
骨髄移植の歴史は完全無菌化に始まります。主治医は基本に忠実に完全防御して宇宙服のような格好で清潔を守り,当然のように移植を受ける側も無菌のためと称してヒビテンのお風呂に入ってから移植病室に移動していました。約10年前です。それが移植前の通常でした。今は簡易化が目標です。つまり,手洗いはしっかり。1m以内に立ち入らなければ,マスクも必要ではない。新聞,雑誌は持ち込み可。ペットボトルも可。日常の着替えもきちんと洗濯されていればそのまま病室へ。腸内細菌叢を乱さないよう不必要な腸管滅菌は行わない。もちろんヒビテンのお風呂もありません。では,簡易化の中で,なぜ,お寿司はだめなのでしょうか?
お寿司はだめ?
京大病院感染制御部のDr.藤原尚子先生に 『好中球減少時』 の食事全般についてコメントしていただきました。
1.原則として血液悪性疾患の化学療法中と造血細胞移植後の好中球減少時期を分けて考える必要はありません。移植後はグレープフルーツに対して制約があります(文献1)。グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン誘導体がチトクロムP450に対する抑制効果を持つため,シクロスポリンの血中濃度が上昇すると考えられているからです。
2.『好中球減少時』の患者さんの多くは,好中球減少というリスクに加えて,免疫抑制剤投与中で,抗癌剤による腸管粘膜障害があり,広域抗菌薬による正常腸内細菌叢の破綻が起こっています。さらに制酸剤投与により胃酸による菌量低下が見込めません。
このような状況で避けることが推奨される食物は
(1)健常人でも避けるべきもの(期限切れ,食中毒が懸念される食物)
(2)汚染細菌・真菌の量が多いと考えられるもの,となります。
(1)は,摂取した場合の腸炎発症の閾値の低さ,および発症時の重症化が,避ける理由です。当院でもよく経験するのは,ステロイド内服中の患者におけるサルモネラ腸炎・菌血症です。通常,私たち健常人も日々サルモネラを経口摂取しているのですが,胃酸での殺菌や腸管粘膜の免疫等で発症に至ることはほとんどないのだと考えるのが自然です。それが発症してしまうのが,こういう患者です。また,HIV患者で有名ですが,発症後の慢性化,再燃も血液疾患での化学療法中患者や移植後患者で認められています。細胞内寄生性であるためにおこる病態なので,他の菌についてはその病態に顕著な差は認められません。摂取機会も圧倒的に多いので,サルモネラには要注意です。
(2)は,摂取した菌の腸管病原性は不明でも,腸管からtranslocationして菌血症になる可能性があることが,避ける理由です。ものによっては流水での洗浄・加熱・低温殺菌を行って菌量を低下させれば摂取可能です。このような処置ができないもの(自家製漬け物・もともと生で食べる食物)は避けるべきものとなります。例えばキムチは(2)に属するため,加熱により摂取可能です。
「無菌食」 なるものは不要ですが,(1)(2)が疑われる食べ物は,適切な処置を行って摂取するということになります。(2)に関しての簡易化は現段階ではここまでです。
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以上の藤原Dr.のコメントからお寿司は 「なまもの」 という意味では(2)の可能性として避ける必要があるようです。寿司ネタによっては(1)もあり得るでしょう。お店の衛生状態や寿司職人の手の状況にもよりますが,作る過程においては(1)か(2)かは別として多少の菌が混入する可能性も出てきます。その他に,避けた方が良いものはCDCのガイドラインや,日本造血細胞移植学会のガイドラインにも記載がありますが,納豆やチ-ズです。袋菓子や清潔に販売されている食品はもちろん食べても良いと考えられています。
どんな物を食べている?
写真は普通の食事と移植例を受けている方-いわゆる生禁-の食事です。一見,普通の食事にみえるのではないでしょうか?違いは果物について言えば,写真左は皮のついた果物がついています。移植後の好中球減少時の食事です。右は普通食です。ところがこれが意外と不評です。あっさりした味付けだからです。
どんな物を食べたい?
共通して化学療法中の皆さんから要望されるのは,しっかりした味付けのものという希望です。食べたいものベスト3はカレー,ラーメン,焼そばです。その他にはキムチもあります。はっきりした味付けに希望が集中します。カップヌードルも人気です。
こんな食事があれば?
入院中の患者さんの食事への関心は高いものがあります。病棟内で食事が選択メニューになっていて,単品を注文して食べることが出来て,少しずつ品数をとれると3度の食事が楽しいものになるでしょう。そんなに多くの量はいらないのですから。
文 献
1.Ku Yi-Min et al. Effects of grapefruits juice on the pharmacokinetics of microemulsion cyclosporine and its metabolite in healthy volunteers: Does the formulation difference matter? J Clin Pharmacol 1998; 38: 959-965.
http://www.minc.ne.jp/kasii/501-5.htm
副作用:免疫抑制
造血幹細胞移植の副作用:免疫抑制 2006年10月01日
1.はじめに
治療の内容にもよりますが、化学療法を受けた方は通常、免疫力(体がさまざまな病原体と戦う力)が一時的に低下することが知られています。中でも造血幹細胞移植を受けた後など、厳しい免疫抑制状態にある場合には、さまざまな感染症にかかる可能性があります。そして、免疫抑制状態であるために、感染すれば重篤(じゅうとく)な状況になります。そのため、適切な感染予防が必要です。感染症を引き起こす病原体は、「免疫抑制状態の患者さん自身」、「免疫抑制状態の患者さんに接する人(担当する医療従事者や面会者等)」、「環境」に由来します。
免疫抑制状態の患者さんに接触する人がインフルエンザや麻疹(ましん)等にかかっていれば、病原体は容易に感染してしまいます。そのためせきや発熱のある人は、免疫抑制状態の患者さんに接触しないようにします。免疫抑制状態の患者さんも感染症の人に接触しない努力をするとともに、常に手洗いを行い、必要に応じてマスクを使用します。しかし、手洗いやマスクなどの感染予防を徹底的に実践しても、感染症を完全に回避することはできません。それは、免疫抑制状態の人の体内にもともと生息している病原体による感染症は、防ぐことができないからです。
ヒトの消化管(口から食道、胃、腸を経て肛門に至る飲食物の通り道)や気道(鼻からノドを経て肺の奥に至る空気の通り道)の表面には、極めて数多くの微生物が生息しています。しかし、免疫力によって増殖が抑えられているため、通常は病原性を呈することはありません。そのため、微生物が存在していても、ヒトは健康な生活を送ることができます。しかし免疫抑制状態になると、微生物と抵抗力の均衡が崩れ、微生物は急速に増殖します。その結果、感染症が発生します。すなわち免疫抑制状態の患者さんは、すでに体内に生息している微生物による感染症の危険性を完全に避けることは難しいのです。
免疫抑制状態の患者さんやその家族から、食べ物や日常生活についての質問を受けることがあります。ここでは特に、そうした環境からの感染を予防する方法について述べたいと思います。
2.食事
感染症発症の予防のため、免疫抑制状態にある患者さんの食事には、材料の選択と調理法に十分な配慮を行うことが必要です。まず、重大な感染症を引き起こす可能性のある食材は、避ける必要があります。具体的には、生・半生の肉(牛肉、豚肉、家禽(かきん:ニワトリなど)肉、子羊の肉、鹿肉等)は避け、高温で調理してから食べなければいけません。また、生卵や半熟卵、およびこれらを含む食事にはサルモネラの集団感染の報告があるので、やはり避けるべきです。牡蠣(かき)や蛤(はまぐり)のような生・半生の海産物も、ビブリオや腸炎ウイルスに汚染されている可能性があるので、食べてはいけません。流水で洗うことができない生の新鮮フルーツや野菜も避けるべきです。
3.リネンと衣類
リネン(シーツや枕カバー等の寝具)や衣類は、免疫抑制状態の患者さんに直接接触するので適切な対応が必要ですが、普通の洗濯が行われたリネンが感染源になったという報告はありません。したがって、免疫抑制状態の患者さんが用いるリネンや衣類であっても、普通の洗濯で十分です。リネンの処置については、汚れたリネンはできるだけ静かに取り扱い、ほこりを立てないようにします。空気中に病原体がまき散らされることを防ぐ必要があるからです。洗濯については、洗濯サイクル、洗濯方法、塩素系漂白剤の量が適切であれば、十分に病原体を減らすことができます。乾燥時やアイロン掛けのときの高温処置には、殺菌作用が期待できます。
4.ペット
最近のペットブームの影響もあり、多くの家庭で犬や猫等が飼われています。当然のことながら、免疫抑制状態の患者さんの家庭にもペットがいることもあると思います。そのためペット対策は重要です。
ペットには飼い主の心を和(なご)ませる効果があり、精神的な支えにもなります。しかし免疫抑制状態の患者さんは、できるだけペットに接触しない努力が必要です。もしペットに接触した場合は、手洗いを行うようにします。小児に対しては、成人が手洗いを監督しなければいけません。免疫抑制状態の患者さんがペットを飼うときは、下記のように行うのが望ましいといえます。
クリプトスポリジウム症、サルモネラ症、カンピロバクター症などの感染症が媒介される危険があるため、ペットのふんに触れないようにする。
動物のすむ小屋やベッド、かごの掃除をしたり、排泄(はいせつ)物の処理をしてはならない。それらを避けることができない場合は使い捨ての手袋を使用し、処理が終了した後はしっかりと手洗いを行う。
生後6ヵ月以内のペットや、捨て猫、捨て犬等を飼育することは避ける。どのような病原体に感染しているかわからないからである。
下痢をしている犬や猫については、獣医に依頼してクリプトスポリジウムについて検査する。
サルモネラ感染を避けるために、蛇、トカゲ、亀、イグアナ等の爬虫類(はちゅうるい)を飼育したり、触れたりしない。
アヒルやニワトリのひなはサルモネラ属やカンピロバクター属に感染しているため、それらに接触しないようにする。
魚の水槽(すいそう)を掃除するときは、マイコバクテリウム・マリナムと接触する機会を最小にするために、手袋を着用する。
飼い猫は特に注意が必要です。猫の飼育をあきらめる必要はありませんが、猫のふんからトキソプラズマという寄生虫が感染する可能性については、理解しておく必要があります。免疫抑制状態の患者さんが猫と一緒に暮らす場合は、ペットシートやトイレの砂を毎日交換します。この場合、家族が交換することが望ましいといえます。免疫抑制状態の患者さんがシートや砂を交換しなければならない場合は、使い捨ての手袋を着用します。この場合、手袋は使用するたびに破棄して、石鹸と水でしっかり手を洗います。猫用のマットやよく使う敷布などは、除菌するために頻繁に洗濯します。乾燥したシートや砂を捨てるときには、トキソプラズマの卵(接合子嚢(せつごうしのう))が飛散するのを防ぐため、そっと運びます。猫のふんはトイレに流してしまうか、ごみに出すか、深く地中に埋めるようにします。猫は室内で飼育し、不十分に調理したえさや生のえさを与えないようにします。
5.アスペルギルス
免疫抑制状態の患者さんにとっては、アスペルギルスというカビによる感染症が大きな問題となります。どこにでもいるカビで、普通は土壌、水、腐った植物にみられます。フィルターされていない空気、換気システム、ほこり、環境の水平表面、食物、装飾用植物等から培養され、水系システムの水からも培養されることがあります。
アスペルギルスは、空気を介して呼吸器系に感染します。アスペルギルスの胞子は乾燥に強く、空気中を漂って遠方に到達することができます。アスペルギルス胞子を吸入すると、肺組織に浸潤(しんじゅん)して肺炎になります。引き続いて血流を介して拡散し、複数の深部臓器が巻き込まれることになります。特に、侵襲(しんしゅう)性肺アスペルギルス症という重篤な感染症が問題になります。固形臓器移植(心臓、腎臓、肝臓、肺)を受けた患者さんでも報告されていますが、その発生数は、造血幹細胞移植患者よりは少ないことが知られています。侵襲性肺アスペルギルス症による死亡率は、基礎疾患に応じてさまざまです。同種造血幹細胞移植後の発症では、非常に高い死亡率が報告されていて、再生不良性貧血や白血病、HIV感染による免疫不全症、固形臓器移植後も、それに準じた高い死亡率が報告されています。
このようなことから、免疫抑制状態にある患者さんは、アスペルギルス感染の予防が大変重要であるといえます。建築や改修工事の現場では、アスペルギルス胞子が空気中に舞っています。そのため、建築現場などに行くことを避けるようにします。実際に、侵襲性肺アスペルギルス症は建物の破壊、建築、改築のような、空気中のアスペルギルス胞子数を増加させる状況に関連していることが確認されています。
6.レジオネラ
「レジオネラ症」は、「レジオネラ肺炎」と「ポンティアック熱」に大別されます。レジオネラ肺炎はレジオネラによって生じた肺炎を伴う多臓器系疾患で、ポンティアック熱は肺炎を伴わない自然治癒するインフルエンザ様疾患です。レジオネラは水系環境に生息していて、冷却塔、蒸発冷却機, 過熱式飲用水配給システム等が増殖に適した環境です。レジオネラは25~42℃の温度、水の停滞、湯あかや沈殿、特定のアメーバ属の存在等によって増殖が盛んになります。
レジオネラ症は、レジオネラに汚染された水に暴露(ばくろ)すれば、必ず発症するというわけではありません。レジオネラ症の発症には、暴露の種類や程度、暴露した人の健康状態等、多くの因子が関連します。臓器移植や血液悪性疾患によって重症免疫不全になった患者さんでは、レジオネラ症が発症する危険性が非常に高いことが報告されています。糖尿病、慢性肺疾患、非血液学的悪性疾患の方、喫煙者、高齢者では危険性が中程度です。このような基礎疾患は、レジオネラ症の危険因子であるばかりでなく、患者さんを死亡させる危険因子でもあります。
加湿器のような、水が関連する器具を使用する場合には、レジオネラへの注意が必要です。そのため、病院では大型の室内加湿器を使用していません。もちろん、十分な滅菌処置を毎日行い、滅菌水を補充しているなら使用してもかまいません。なお、レジオネラ症にかかった人から、他の人へ伝播(でんぱ)する心配はありません。
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7.おわりに
免疫抑制状態にある患者さんは、正常な免疫力を持つ人では全く問題とならないような病原体によって、重大な感染症を発症することがあります。そのため、手洗いや必要に応じたマスク装着によって、病原体の伝播を阻止することが大切です。ここで忘れてはならないことは、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種です。免疫抑制のある患者さんにインフルエンザワクチンを接種しても、抗体価の増加は不十分なので、インフルエンザにかかる可能性はあります。しかし、インフルエンザの合併症で重症となったり死亡したりする割合は、かなり減少させることができます。そのため、免疫抑制のある患者さんへのインフルエンザワクチン接種は、必ず実施すべきです。同様に、免疫抑制状態の患者さんに接触する人々にも、ワクチンを接種することは大切です。免疫抑制のある患者さんにインフルエンザを感染させる可能性が最も高いのは、密接に接触する同居家族や医療従事者です。そのため、これらの人々にワクチンを接種してインフルエンザを予防すれば、間接的に免疫抑制状態の患者さんにインフルエンザが感染することを防ぐことができます。
肺炎球菌ワクチンの接種も、重要な感染予防策です。このワクチンの接種によって、肺炎の原因菌として最も頻度の高い肺炎球菌の感染を防ぐことが大切です。しかし、日本は他の先進国と比較して、その接種率が特異的に低いという現状があります。免疫抑制状態の患者さんには、積極的に肺炎球菌ワクチンを接種することをお勧めします。
なお、現在使用されているインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは、いずれも不活化ワクチン(化学処理などにより、感染性がない成分を使用したワクチン)です。ワクチンの接種によって、インフルエンザや肺炎球菌感染症を発症する可能性はありません。また、いずれのワクチンも化学療法後や造血幹細胞移植後の免疫不全に対する保険適用はないため、自治体によっては、接種者に対する公費助成を行っているところもあります。免疫抑制状態の患者さんを感染症から完全に守ることは不可能です。しかし適切な感染予防策によって、感染症となる危険性を減らすことは可能です。
造血幹細胞移植の適応ガイドライン
造血幹細胞移植の適応ガイドライン 2002年4月
1. ろ胞性リンパ腫 臨床成績
1) 化学療法の成績
濾胞性リンパ腫の約10~15%がⅠ期およびnon-bulky Ⅱ期の限局期症例であり、放射線照射による局所制御で10年のfailure-free survivalは50~60%、また全生存率は60~80%と長期間の疾患制御が可能であるが10%以上の症例は10年の寛解後も再発し、限局期といえども治癒は困難である5)。
しかし、10年生存率が50%以上であることから、限局期(早期)症例に対する造血幹細胞移植の適応はない。一方、Bulky Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の進行期症例では化学療法で腫瘍の縮小効果が得られるものの、化学療法は生存の延長には寄与せず、さらに、併用する薬剤をより強力なものにしても生存延長には寄与しないことが明らかとなっている6-8)。
後記するように最近CD20抗体が開発され、とくに抗がん剤との併用によりminimal residual disease(MRD)が消失する症例も認められることから、今後CD20抗体を含めた化学療法の効果を見極めた上で移植の適応を決める必要があろう。
2) 自家造血幹細胞移植の成績
この治療法により寛解期間の延長は認められるものの生存曲線はplateauにならず、1997年のBiermanらの100例の解析でも4年全生存率は65%であったが4年のfailure free survivalは44%で生存曲線も右肩下がりでplateauにならず、同様な成績はFreedmanらによっても報告され、すなわち末梢血・骨髄浸潤がきわめて頻繁に認められるろ胞性リンパ腫に対するpurgingをしない通常の自家移植では治癒が期待できる治療法として確立していないことが示された9,10)。
臨床研究の段階ではあるが、濾胞性リンパ腫に治癒が期待できる治療法としては自家造血幹細胞移植併用では、Dana Farber Cancer Instituteにおける抗B細胞抗体と補体を用いたex vivo purg-ing処理をした自家骨髄移植を併用した大量化学放射線療法がある。1991年にGribbenらが報告した時点で未処理の(PCR方で微少残存腫瘍が陽性の)群に比してex vivo purging処理処理群(PCR法で陰性群) の生存率の優位性が認められたが11)
、1999年にFreedmanらにより報告されたup-dateの報告ではex vivo purging処理群の8年生存率は83%でほぼplateauになっており、自家造血幹細胞移植片中のリンパ腫細胞をパージングによりPCR方レベルで陰性化すれば自家造血幹細胞移植併用の大量化学放射線療法で治癒が期待できることを示している12)。
一方、進行再発症例は、初発例に比べ予後が不良(数年以下)となるため、パージングによる自家造血幹細胞移植と同種移植は研究的治療法として妥当である。
3) キメラ型抗CD20抗体(rituximab、 リツキサン)の成績
米国において開発されたキメラ型抗CD20抗体(Rituximab:リツキサン)の再発または治療抵抗性の主に低悪性度リンパ腫を対象とした臨床試験の結果、単独4回投与における抗腫瘍効果は151例中奏効例が76例(CR9例+PR67例)と高率な奏効率が得られ、time to progressionの中央値は12.5ヶ月であった。薬物有害反応としては、ほとんどが軽度なもの(grade 2以下)で、何れも24時間以内に消失した。また、非血液毒性は第1回目の投与時に比べ、2~4回目の投与時には減少した。
末梢血中の腫瘍細胞数が5万/ml以上などの腫瘍量が多い症例では初回投与時にTNF aやIL-6の放出に伴う悪寒発熱、悪心嘔吐、血圧低下、呼吸困難などのcytokine-release syndromeが起きることが報告されており、注意が必要である14)。
日本における第Ⅱ相試験の結果でも、indolentリンパ腫(濾胞性など)34例中21例が有効(CR4例、PR17例)で奏効率は60.0%と高率であり、有害事象も米国での試験同様に軽微なものであった。
未治療症例を対象にしてRituximab単剤の4回反復投与の臨床第Ⅱ相試験が米国とフランスで実施され、それぞれ64%、69%と高い奏効率が報告されている15)。
抗CD20抗体はその作用機序が抗がん剤とまったく異なるために、抗がん剤との併用で抗腫瘍効果が高まることが期待される。そこで、非ホジキンリンパ腫に対する標準的治療法であるCHOP療法6サイクルとrituximab 375mg/m2 6回投与との併用が、低悪性度非ホジキンリンパ腫(濾胞性B細胞リンパ腫を含む) 38例を対象に実施された16)。その結果、奏効率100% (intention to treat analysisでは97%)で、追跡期間29ヶ月(中央値)で38例中28例が寛解を維持しているなどきわめて優れた抗腫瘍効果が認められ、また、併用により両薬剤の有害事象が増強する傾向はなかった。
特筆すべきはこの併用療法によりPCR法による微少残存腫瘍細胞(mininal residual disease: MRD)の消失した症例があり、従来の化学療法では治癒が望みにくいこの病型において治癒の可能性がでてきたことである。
低悪性度・濾胞性リンパ腫症例においてRituximab投与後の再発時に再投与しても奏効率40%(CR11%、PR30%) と有効性があり、重篤な有害事象の出現することは稀であると報告されている17)
。
HLA型 白血球の血液型
2.HLAとは?
HLA型は、白血球の血液型とでもいうべきものです。両親から各座半分ずつを遺伝的に受け継ぐため、兄弟姉妹間では4分の1の確率で一致しますが、非血縁者間(他人)では、数百~数万分の1の確率でしか一致しません。日本をはじめ多くの国で、血縁者間でHLAが一致したドナーが見つからない患者さんのために骨髄バンクが設立されています。現在、日本骨髄移植推進財団(JMDP)のドナー登録者数は、約25万人に上ります。JMDPの報告によれば、HLA-A、HLA-BのDNA適合度がGVHD発症頻度や生存率に直接関連していて、これらの点を考慮したドナー選択を行っています。最近では、HLA-Cの違いも影響することがわかってきています。
これらに対して臍帯血移植では、造血幹細胞移植のときに重要な6抗原中4抗原以上が適合していれば、生着やGVHDにそれほど大きな影響をもたらさないことがわかっています。また、HLAが適合していなくても移植が可能な場合もあり、研究的治療として行われています。
白血球抗原(HLA)
白血球抗原(Human Lymphocyte Antigen:HLA)は、第6染色体の短腕に位置する遺伝子群に支配されているタンパク質で、HLAはA、BやC等のclassIと、DRやDQ等のclassIIの2群に大別されます。造血幹細胞移植のときに重要な抗原は、A、B、DR抗原(3座6抗原)です。患者さんの免疫抑制が不十分の場合には、これら6抗原すべてが一致(適合)しないと生着不全を起こします。また、ドナー細胞が生着してドナー由来の造血能が回復してくると、今度は患者さんの細胞を攻撃するGVHDが高頻度に生じます。HLA血清検査で6抗原とも一致しても遺伝子型で異なる場合があり、移植成績にも影響を及ぼします。非血縁者間移植のHLA適合や一部の血縁者間移植の適合に関しては、遺伝子型も検査する必要があります。
GVHD その2 慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)
13.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)とは
慢性GVHDは、移植片の中にある幹細胞が患者さんに生着した後に、患者さんの体の中で新たにつくられたT細胞が引き起こす免疫反応によるものと考えられています。通常、移植後約100日前後以降に発症し、自己免疫性疾患に類似した症状がみられます。慢性GVHDの診断は、特徴的な症状と病理診断によりなされます。発病のしかたとしては、急性GVHDに引き続いて起こるもの(progressive:進行型)、急性GVHDがいったん改善した後に発症するもの(quiescent:一時静止型)、急性GVHDにかかることなく慢性GVHDのみが起こるもの(de novo:新規発生型)等、さまざまです。急性GVHDの治療を行っているときに発症した場合、非血縁者のドナーの場合には、時期的な問題だけで急性と慢性を分けることは難しい例もあります。そのため、これらを区別するための新しい呼び方が提唱されました7)。特に全身性の慢性GVHDを発症すると、移植後晩期の生活の質(QOL)の低下を招く場合が多く、感染症も合併しやすくなるため、生命予後にも大きな影響があることが知られています。
14.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の発症機構
ドナーの造血細胞やリンパ球が患者さんに生着した後に、免疫の仕組みがゆっくりと回復します。その過程でさまざまな行き違いが生じると、慢性GVHDが発症すると考えられています。移植前に行う抗がん剤や放射線治療、急性GVHDの影響、あるいは年齢による萎縮(いしゅく)のために胸腺と呼ばれるリンパ球の教育を担当する臓器の働きが弱くなって、十分な教育を受けていないT細胞が体の中に生まれます。これら自己反応性のヘルパーT細胞がさまざまな臓器に侵入し、さまざまなサイトカインを出して自分自身の組織を攻撃する細胞障害性T細胞を刺激したり、自己抗体をつくり出すB細胞を活発にさせます。また、マクロファージを刺激して別のサイトカインを生み出させてさまざまな臓器の線維分を増やした結果、皮膚や胆管、肺が硬くなってしまいます。さらに、免疫力が低下して感染症に対して非力になります。
15.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の発症頻度と重症度
慢性GVHDは急性GVHDと異なり、日本と欧米での発症率の差は少ないとされています。血縁者間骨髄移植で約41%、非血縁者間骨髄移植で約44%ですが、血縁者間末梢血幹細胞移植では明らかに高頻度で60%程度に達します4)。急性GVHDのときと同様に、若年の患者さんに比べて年齢が高い患者さんほど、慢性GVHDが発現する傾向にあります。また、急性GVHDを発症した患者さんでは、慢性GVHDの発症頻度が高いことが知られています。慢性GVHDの重症度は、これまでは皮膚と肝臓の障害の程度を中心に限局型と広汎型に分けられてきました。しかし新たに、各臓器別にスコア化した障害の程度と傷害された臓器の数、そして肺病変の有無に基づいた軽症(mild)、中等症(moderate)、重症(severe)の3つに分けた分類が提唱されています7)。
16.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の症状
最も多い症状は皮膚障害で、かゆい発疹(ほっしん)が出たり、カサカサになって硬くなり、部分的に脱毛、脱色したりします。また、涙腺に損傷を受けて涙の量が減るため、眼球の表面(結膜といいます)が乾燥して痛みや視力障害を来す、いわゆるドライアイや目の刺激感が現れます。口の中の唾液腺も侵されることが多く、食事のときにしみたりします。食道に病変があると、飲み込むのが困難になります。肝臓の障害から、黄疸や肝機能検査結果の異常がみられることがあります。胃粘膜や腸の粘液分泌腺(ぶんぴせん)が傷害されると、適切な栄養吸収力が妨げられて胸焼け、胃痛、腹痛、体重減少等が起こります。筋膜が硬くなったり腱が萎縮することにより、関節の曲げ伸ばしが困難になることがあります。肺が硬くなると、喘息のような喘鳴(ぜんめい)音が聞こえたり、呼吸がうまくできなくなって息苦しさを感じたりします。ひどい場合には、血液中の酸素濃度が低下して動けなくなることもあります。これら以外の臓器にも、慢性GVHDに関連する障害が出現することが知られています。いずれの症状も個人差があり、人によってどのような症状が、どの程度の重症度で出現するかはさまざまです。
17.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の治療適応
慢性GVHDがさほど重症でない場合、例えば症状が1~2臓器だけにあって症状がさほど強くない場合は、原則として外用薬などの局所療法を選択します。内服薬などを用いた全身治療は、症状が3臓器以上に及ぶ場合、または1臓器のみであっても症状が強い場合に行います。しかし、どの治療を選択するかは厳密なものではなく、種々の要件を踏まえて患者さんごとに決定します。移植片対白血病(GVT)効果を生かしたいとき、あるいは感染症を合併しているときは、全身治療を消極的に考えます。逆に、原病が再生不良性貧血のようにがんではない疾患の場合や、以下のようなGVHDの予後不良因子がある場合は、全身治療を比較的積極的に考慮します。
慢性GVHD診断時の症状や検査所見により、その後の経過を推定することができます。これを予後推定因子といい、現在までに種々の因子が同定され、progressive型の発症形式、血小板減少(10万以下)、広範な皮膚病変、下痢や体重減少などの消化管障害、不良な全身状態があげられています。
18.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)に対する局所療法、支持療法
皮膚や口の中の病変に対して、ステロイドやタクロリムスを含んだ塗り薬(外用剤)、唾液減少に対するうがいや人工唾液、ガムによる刺激が行われています。外出時などに、皮膚を紫外線から防護することも大切です。消化管吸収障害と体重減少に対しては、膵(すい)酵素製剤の内服が試みられています。眼球が乾燥すると、感染症や角膜の障害を来して視力低下がみられる場合があるため、人工涙液の点眼や涙点閉鎖術が行われます。筋膜炎や皮膚硬化により関節の動きが悪くなると日常生活に支障が生じるので、その防止のための理学療法が有用です。長期間のステロイド使用に伴う副作用対策として、糖尿病や耐糖能異常に対する食事・運動療法、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に対する治療が行われます。閉塞性細気管支炎は治療が難しい肺の合併症です。重症の場合、日常生活にも支障が生じるほど血液中の酸素濃度の低下が起こるため、呼吸リハビリテーションや在宅酸素療法が行われる場合もあります。
19.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)に対する全身療法
一般的に用いられている方法は、ステロイド剤とシクロスポリンやタクロリムスの併用療法です。患者さんの体重1kgあたり1mgでステロイド剤を開始することが標準的と考えられ、症状の改善がみられれば徐々に投与量を減らしていくことが一般的です。ただ、適切な投与期間や減量速度に関しては、定まった方法が知られていないのが現状です。減量の最終段階では、副腎の働きが悪くなることがあるため注意が必要です。ただ、以上の薬剤量や減量法が日本人の患者さんにも適切かどうかは不明のため、患者さんの症状などにより、他の方法も行われています。また、治療期間に関しても議論のあるところで、すべての症状が消失するまで続行すべきか否かは、治療に伴う薬剤の副作用や感染症など合併症とのバランスで決められます。涙腺障害や一部の皮膚・口腔病変、肺の所見はGVHDがコントロールされていても残存するため、治療続行の目安にはならないといわれています。ステロイド剤は、しばしば長期使用が必要となります。併用するシクロスポリンやタクロリムスは、ステロイド剤を中止した後に減量するのが原則ですが、その投与量は十分には検討されていません。
こうしたステロイド剤を中心とする初回治療が成功しなかったときに行う治療のことを、二次治療といいます。二次治療は、標準的な一次治療であるステロイド剤を2週間投与しても増悪する場合、あるいは4~8週間治療を継続したにもかかわらず改善しない場合に行います。後者には、ステロイド剤を体重あたり0.5mg未満にまで減量できない場合も含まれます。二次治療は、比較的軽症の場合は経口剤であるミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、ヒドロキシクロロキン、サリドマイド等、より重症な場合は、フォトフェレーシス、リツキシマブ、ペントスタチン、高用量ステロイドのパルス療法等があります。しかし、いずれの効果も十分ではないうえに、わが国では使用経験が乏しく、また保険適用外の治療となります。
20.参考文献
より詳しい情報については、以下の文献をお薦めします。
1) Ferrara, J. L.; Reddy, P. Pathophysiology of graft-versus-host disease. Seminars in hematology. 2006, vol. 43, p. 3-10.
2) Kanda, Y. et al. Effect of graft-versus-host disease on the outcome of bone marrow transplantation from an HLA-identical sibling donor using GVHD prophylaxis with cyclosporin A and methotrexate. Leukemia. 2004, vol. 18, p. 1013-1019.
3) Yanada, M. et al. Tacrolimus instead of cyclosporine used for prophylaxis against graft-versus-host disease improves outcome after hematopoietic stem cell transplantation from unrelated donors, but not from HLA-identical sibling donors: a nationwide survey conducted in Japan. Bone Marrow Transplantation. 2004, vol. 34, p. 331-337.
4) 日本造血細胞移植学会全国データ事務局. 平成16年度全国調査報告書. 2005, http://www.jshct.com/report_2004/index.html, (参照 2006-10-01).
5) 日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン: GVHDの診断と治療に関するガイドライン. JSHCT monograph, 1999, vol. 1, http://www.jshct.com/guide_pdf/1999gvhv2.pdf, (参照 2006-10-01).
6) Nishida, T. et al. Intestinal thrombotic microangiopathy after allogeneic bone marrow transplantation: a clinical imitator of acute enteric graft-versus-host disease. Bone Marrow Transplantation. 2004, vol. 33, p. 1143-1150.
7) Filipovich, A. H. et al. National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-versus-Host Disease: I. Diagnosis and Staging Working Group Report. Biology of blood and marrow transplantation. 2005, vol. 11, p. 945-956.
移植片対宿主病(GVHD) その1
造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病 2006年10月08日
1.移植片対宿主病(Graft-versus-host Disease:GVHD)とは
Graft-versus-host Diseaseの略で、日本語では「移植片対宿主病」といいます。同種移植を受けた場合にしばしばみられる合併症で、移植片に含まれるドナーリンパ球が、患者さんの体そのものを「よそ者」とみなして攻撃する厄介で複雑な免疫反応のことです。心臓移植や腎臓移植等で「拒絶反応」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、GVHDはその逆の反応と考えればわかりやすいでしょう。
人の体には、自分の体でないものは体の外に排除しようとする働きがあり、臓器移植の場合には、他人の臓器を体外へ排除しようとする反応が起きます。これが拒絶反応といわれるもので、免疫応答を弱める免疫抑制剤といわれる薬を使って、この反応がひどくなりすぎないように治療します。造血幹細胞移植の場合には、患者さんの体に入れる細胞(“移植片”と呼びます)である造血幹細胞が少数のため、強い移植前治療を用いて患者さん本人の免疫力を非常に弱めておかないと、移植片が容易に体外に排除(拒絶)されてしまいます。拒絶を免れてドナーの造血幹細胞が患者さんの体の中で根づくと、やがて増えてきます(これを “生着(せいちゃく)”と呼びます)。移植片である骨髄、末梢血あるいは臍帯血(さいたいけつ)中には、ドナー由来のリンパ球がたくさん混在しています。このリンパ球は生着を助けるために大切です。また、生着した後に増えてくると、今度は免疫力をしっかりと回復させる大事な働きをします。強い移植前治療により、患者さんの免疫力は著しく低下しますので、外部から侵入した微生物や異物に対して無防備な状態にあります。ドナー由来のリンパ球は、この弱った免疫力を回復させて患者さんを感染症から守るほかに、体の中にまだ残っている白血病細胞にも追い打ちをかけるのです。
3.移植片対宿主病(GVHD)は軽度のものなら発症したほうがよいか
GVHDは重症になると、移植後の合併症の中でもかなり厄介な合併症になります。しかし、GVHDが適度に認められたほうが、もとの病気の再発も少ないといわれています。GVHDと同様な攻撃反応が、移植後に残存しているがん細胞に対して向けられるからです。移植後に白血病などの再発が抑えられる可能性があるこの反応を、「GVL効果(移植片対白血病・リンパ腫・骨髄腫効果)」といいます。この効果は、患者さんに害を及ぼす合併症ではなく良い反応といえますが、一方では、GVL効果があってGVHDのない状態がどの程度の頻度で起こるかに関しては、十分な知見が得られていません。したがって一般的には、GVHDによる臓器障害という悪い側面と、GVL効果による再発減少という良い側面の相反する反応のバランスが重要と考えられています。GVHDを発症した患者さんが、GVHDが起きなかった患者さんに比べて良い治療成績を示すことは、一部の患者さんだけに限られるようです2)。
なお、進行期の造血器がんの患者さんに対する血縁者間移植では、軽い急性GVHDを発症したグループの治療成績が、発症しなかったグループよりも優れていたという解析結果があります。あまりひどいGVHDが出てしまうと、合併症で治療成績が下がってしまいます。しかし、軽い程度の急性GVHDが出た場合には、GVL効果の良い面が引き出されたことを反映していると考えられます。したがって原則としては、GVHDをしっかり抑制することが、良い治療成績を出すためには大切と考えられています。
5.マイナー組織適合性抗原
移植片対宿主病(GVHD)を防ぐために、患者さんとドナーの方の白血球の型(組織適合抗原、HLAと呼びます)を可能な限り合わせてから移植を行うのが一般的です。HLAを合わせる理由は、リンパ球がHLAの違いを最も鋭敏な指標にして、その細胞がよそ者か否かを区別するからです。しかし、リンパ球は高度に訓練された免疫担当細胞であるため、HLA以外の患者‐ドナー間の微妙な違いも認識します。ヒトの体を構成するタンパク質をつくり出すもととなる遺伝子には、個人による多様性(これをSNP(スニップ)といいます)が存在することが知られています。その結果、タンパク質を構成するアミノ酸の並び方にも小さな違いが発生する場合があります。そのような、個々のヒトで相違するアミノ酸の並び方をリンパ球が識別して反応することを、「マイナー組織適合性抗原」と呼んでいます。HLAを厳密に合わせた同胞間でもGVHDがみられるのは、このマイナー組織適合性抗原の相違によるものです。ヒトのマイナー組織適合性抗原は、数百種あると推定されます。個々人の間で意味のあるマイナー組織適合性抗原は異なり、それぞれのHLAに特有のマイナー組織適合性抗原があります。したがって、レシピエント‐ドナー間で個々にマイナー組織適合性抗原を適合させることは非常に困難で、GVHDがどうしても一定の確率で生じることになります。最近では、日本人によくみられるHLA型に関連するマイナー組織適合抗原が、複数明らかにされています。
6.移植片対宿主病(GVHD)は予防可能か
同種移植では拒絶とGVHDを予防するために、強い免疫抑制作用を持つ前治療を行い、移植後は免疫抑制剤を使用します。多くの場合、拒絶は防ぐことができますが、GVHDを完全に防ぐことは困難です。予防法を強くすることにより、GVHDを押さえ込もうとする試みがあります。日本での保険適用はありませんが、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やアレムツズマブ等を移植前治療中に併用する「GVHD予防法」です。このようなGVHD予防法を用いた移植の研究報告では、GVHDの発症頻度は確かに低くなっていますが、免疫の力を弱めすぎて感染症と再発が増加する結果、これまでのところ最終的な生存率は改善されていません。そのほか、欧米では種々の薬剤が試みられています。有望なものもありますが、結論を出すにはまだ早い段階です。現時点では、重症のGVHDがどの程度発症するかという予測に基づいた防止策が選択されています。例えば血縁者間と非血縁者間では、後者のほうが高い確率でGVHDが発症することが判っているため、一般に、より強い予防法が選択されることが多いです。その他、HLAが一致していない場合、妊娠歴のある女性ドナーから男性患者さんへ移植する場合、患者さんの年齢が高い場合等では、重症GVHD発症のリスクが高いとされています。
7.移植片対宿主病(GVHD)予防法の実際
実際の移植現場ではGVHD予防のため、移植日前後から長期間、免疫を抑える薬剤を使用します。最も多く使われるGVHD予防法は、シクロスポリンあるいはタクロリムスに、メトトレキサートを併用した方法です。メトトレキサートは、欧米では移植後1、3、6、11日目に用いられることが一般的です。重症の急性GVHDの頻度が少ない日本では、口腔粘膜の障害や骨髄回復への影響を懸念して、11日目を省いた方法もよく用いられます。シクロスポリンやタクロリムスの投与量は、有効で安全に使用できる血中濃度が維持できるように、週に2~3回程度、血中濃度を調べるための採血を行って調節します。血中濃度が低ければ急性GVHDのリスクが高くなり、高すぎると腎障害などの有害事象が起こりやすくなります。また、内服投与や分割点滴投与の場合には、次の薬剤投与直前に採血して血中濃度が最低となるときの血中濃度(トラフ値)を指標とするのが一般的です。シクロスポリンあるいはタクロリムスは、急性GVHDがなければ原則として移植後2~4ヵ月目ころからゆっくり減量していきますが、減量の速度は副作用が出やすいかどうか、再発しやすいかどうかなども考慮しつつ、個別的に判断されることが一般的です。また、中止の時期に関しては、慢性GVHDが出現しなければ、移植後180日前後が目標とされることが多いようです。シクロスポリンやタクロリムスの副作用には、腎障害の他に中枢神経障害(けいれん、視力障害、意識の混濁(こんだく)等)、高血圧、むくみ(浮腫(ふしゅ))、微小血管障害、高血糖、多毛等があります。他の薬剤との相互作用も多く、血中濃度に影響し腎毒性を増強しますので、併用薬剤については主治医とよく相談してください。また、グレープフルーツは薬の血中濃度を高くしますので控えましょう。
シクロスポリンとタクロリムスのどちらを用いるかは、患者さんごとに決められています。両者を比較した臨床試験などの結果、タクロリムスのほうが急性GVHDを抑える力は強いことが判っていますが、生存率には大きな差がありません3)。HLA-DNA不適合非血縁者間移植とHLA不適合血縁者間移植では、タクロリムスを使ったグループのほうが生存率が高いために、タクロリムスを使用するのは妥当です。しかし一方で、タクロリムスは免疫抑制効果が強いために、移植片対白血病(GVL)効果を弱めて、白血病再発リスクや感染症リスクを高める可能性があります。
8.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の発症頻度
日本造血細胞移植学会の集計データによると、III度以上の重症の急性GVHDは、HLA適合同胞間移植では約8%に、HLA適合非血縁者移植では約13%に起こるとされています4)。欧米での移植成績と比較すると、日本人ではGVHDが比較的軽症にとどまる場合が多いことが知られています。また、年齢が高いほど重症GVHDの頻度は高くなると考えられていますが、非血縁者間移植例ではその影響が少なくなっています。移植片による違いも大きく、末梢血幹細胞を用いた場合は発症頻度が高く、臍帯血移植では低く、特にHLA不適合を含む臍帯血移植におけるIII度以上の重症急性GVHDの頻度は約8%です4)。
GVHDの激しさの程度(重症度)は、症状が現れている器官の数とどの程度までその器官が侵されているかをもとに判断し、急性GVHDは軽度(I度)、中等度(II度)、重度(III度)と危険域(IV度)に分類されます。世界の国々において、同一の基準で急性GVHDの重症度を評価しています。日本造血細胞移植学会のガイドラインも、それに従って作成されています5)。
9.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の症状
最初の症状としては、原因不明の熱が続いたり、皮膚が赤くなったり、発疹(ほっしん)が現れることが多く、ひどい場合には皮がむけたり、水ぶくれができたりすることがあります。肝臓の細胞が破壊され、黄疸(おうだん)が出て体がだるくなり、重症の場合には、肝臓の機能が低下して意識が薄れることもあります。胃の症状としては、吐き気や、食欲がなくなり、腸管が攻撃されると大量の水様下痢便や血が混じった便(血便)が続いて栄養不全となり、いずれも重症になると患者さんは死に至ることがあります。急性GVHDが発症している期間は移植後早期のため、移植前治療による臓器障害や、免疫抑制剤などの薬剤による影響(治療関連毒性と呼ばれます)がみられる時期と一致します。また、サイトメガロウィルスなどの感染症も高頻度に合併する時期です。それらによる症状や所見は、一見、急性GVHDの臨床像と類似するものがあり、臨床的に鑑別が困難になることがあります。免疫抑制剤による微小血管病変などの場合には、急性GVHDに対する予防や治療が逆効果のことがあります。このようなことから、皮膚や大腸粘膜を生検して組織検査を行うことが確定診断、鑑別診断、治療方針決定に重要であるため、患者さんに検査への協力をお願いしなければなりません。
11.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の適応
急性GVHDの治療は、一般にその重症度に従って決定されます。基本的にはI度のGVHDは様子をみるか、皮膚病変に対して局所ステロイド外用を行います。II度以上の場合には、予防的に用いている免疫抑制剤に加える形でステロイド剤をはじめます。しかし、発熱を伴って急激に進行する例やHLA不適合移植等では、I度のGVHDでも治療を考慮します。また逆に、II度であっても様子をみる場合があります。例えば、下痢が起こった場合を考えてみます。その原因、もしくは原因の一部が、移植前に行われた放射線や化学療法による消化管の粘膜障害、移植後のサイトメガロウイルス性腸炎、あるいは移植後TMA等によるものと考えられれば、ステロイド剤の開始を控えます。これらが原因の場合は、ステロイド剤は有効でないばかりか、逆に悪化させてしまうかもしれないからです。
12.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の実際
まず、すでに投与している免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス)の濃度が、適正な範囲内に保たれていることを確認します。次にステロイド剤を投与し、反応がない場合には、さらに強力な免疫抑制剤投与も検討します。しかし、これらの薬剤療法によって日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)が増加したり、GVHDとは直接関連のない臓器合併症が出現する場合があります。ステロイド剤による治療としては、患者さんの体重1kgあたり1~2mgのプレドニゾロン、あるいはメチルプレドニゾロンを約2週間程度投与し、その後ゆっくりと減らしていく方法が一般的です。日本は、欧米と比較して反応性は良好といわれています。ステロイドを漸減している間にGVHDが再燃した場合は、ステロイド剤の増量を考慮します。ステロイド剤による治療にもかかわらず悪化する場合、治療開始後7日経過しても変わらない場合、あるいは治療開始後14日目の時点で効果が不十分と判断された場合等には、治療法の変更を検討します。多くの施設において、患者さんの体重1kgあたり2mgのステロイド剤に反応しない場合には、ステロイド抵抗性急性GVHDと考えます。その頻度は、日本人では全体の10~15%です。このような場合、「ATG(ウマ由来のリンフォグロブリン(R)、ウサギ由来のゼットブリン(R))」、「ミコフェノール酸モフェチル(MMF:セルセプト(R))」、「インフリキシマブ(レミケード(R))」等、次の候補となる薬剤の使用が検討されます。しかし、いずれも重篤な副作用が知られていて、確実な効果を期待できるものはありません。また、残念ながらこれらのうち、日本でGVHDの治療薬として保険適用のある薬剤はありません。
同種造血幹細胞移植:ミニ移植
同種造血幹細胞移植:ミニ移植 2006年12月11日
1.ミニ移植とは
1)ミニ移植の原理を教えて?
造血幹細胞移植というのは、自分の造血幹細胞を保存しておいて強い治療(前処置)のあと戻してやる「自家移植(図1上段)」と、血縁者を含む他人の幹細胞を移植する「同種移植」の2つに分けられます。
移植の前に行う治療を「前処置(ぜんしょち)」と呼びますが、従来の「同種移植」では、骨髄を空にするような超大量の抗がん剤や全身放射線照射を、前処置として使用するのが常でした。最近は、これから説明するミニ移植が増えているため、従来の移植法は「同種フル移植(図1中段)」とも呼ばれます。
前処置療法は、通常の抗がん剤治療では殺せないがん細胞を根絶やしにし、同時にドナーの細胞を患者さんの骨髄に根づかせる(“生着”といいます)ために、患者さん自身の免疫の力を弱める役割も果たします。フル移植では、最初の超大量の前処置療法により、患者さん自身の健全な臓器、例えば肝臓、心臓や腎臓等が障害を受けることが多くありました。このため、移植療法を受けることのできる年齢はせいぜい55歳までで、心臓や腎臓にすでに障害を持つ患者さんは、移植を受けることはできませんでした。しかも白血病細胞は、このように多量の抗がん剤を使えば絶滅できるというほど、生やさしいものではありません。
しかし最近の研究の結果、このような前処置療法によっても殺されずに残った白血病細胞が、移植後に患者さんの体内で増えるドナーのリンパ球が持つ免疫力で殺されて、やがては完治(治癒)に導かれることがわかってきました。この効果のことを「移植片対白血病効果(いしょくへんたいはっけつびょうこうか:GVL効果)」と呼びますので、覚えておいてください。
このことを応用すれば、前処置として投与する毒性の高い抗がん剤や放射線の量を減らせ(「minimize」、ミニ移植(図1下段)の語源です)ます。抗がん剤や放射線の代わりに、患者さんの免疫を抑え、ドナーの造血幹細胞を根づかせる免疫抑制剤を注射してから幹細胞移植を行えば、少ない副作用で造血幹細胞を生着させることが可能になります(図2)。その後、白血病を根絶やしにするGVL効果が出るのを待ちます。ミニ移植は、「骨髄“非”破壊的移植」とも呼ばれます。今まで同種移植を受けられなかった高齢者、あるいは臓器障害のある患者さんでも、ミニ移植なら受けられる可能性が高まります。
同種フル移植のように大量の抗がん剤は使わないで、免疫抑制剤を中心とした前処置療法によって、ドナーの造血幹細胞やリンパ球を患者さんの体内に根づかせます(生着させます)。
2)どのくらいミニ移植が行われているの?
白血病やリンパ腫にかかる患者さんは、50~60歳代の方が多いです。従来行われてきた同種フル移植は治癒する可能性がある反面、合併症が非常に多かったため、通常は、55歳以下で全身状態の良い患者さんしか受けられませんでした(図3)。
ミニ移植が行われるようになってからは、60歳代から70歳近くの患者さんでも同種移植を受けられるようになりました。2003年の全国集計によると、ミニ移植は同種移植全体の3~4割を占めています。例えば、特にミニ移植に力を入れている国立がんセンター中央病院の場合、1999年から2006年までの間に350人以上の患者さんがミニ移植を受け、現在は移植病棟の入院患者さんは50歳以上の方が中心です(図4)。これは特殊な状況ではありますが、今後、全国でも同様の傾向になると感じています。
白血病を含むがんは、もともと50歳以上から増えてきます。従来は、55歳以上の患者さんに同種移植を行うことはなかなか難しかったのですが、ミニ移植によって、70歳まで移植の対象となりました。
3)ミニ移植の実際の流れを教えて?
主治医と移植病院の医師が話し合って、移植の適応になる患者さんであると判断した場合には、移植のための入院日を計画します。移植を安全に行うには、歯科受診と心臓や肺等の全身の検査を進める必要がありますが、これは入院前に外来で行う場合もあります。
移植日の8日前からフルダラビンという薬を6日間点滴で投与し、続いてブスルファンという薬を2日間(計8回に分けて)投与します。ブスルファンは今までは飲み薬でしたが、今後は注射薬も使用されます(これらの薬の副作用については後述します)。
ミニ移植を受けてから、約2~3週間でドナーの細胞が増えてきます。このときに、ドナーのリンパ球が患者さんの体を異物とみなして攻撃する反応が、「移植片対宿主病(GVHD)」です。合併症がなく順調にいけば、多くの患者さんは移植後1~2ヵ月ごろまでには状態が落ち着いて退院できます。
HLAが一致した血縁ドナーからミニ移植する際の、前処置の一例を示します。フルダラビンを6日間、続いてブスルファンを2日間投与します。免疫抑制剤はシクロスポリン、あるいはタクロリムスを移植前日から投与します。
4)どの時点で、ミニ移植を考えたらいいの?
年齢や病気の種類、全身状態ごとに大きく変わりますが、ミニ移植を決断するタイミングは重要なポイントです。白血病やリンパ腫の治療を行う際には、「目標をどこに置くか」について、主治医や家族と十分に相談する必要があります。化学療法だけで完治(治癒)すれば、あえて危険な移植という治療法を選択する必要はありません。ただし、化学療法を継続しても完治(治癒)するのが難しい場合は、リスクを伴いますが「ミニ移植」で完治を目指すか、それとも安全性を優先して病気をコントロールしていくのかを、十分に考える必要があります(図6)。どの治療法を選ぶか個人の価値観によって大きく変わりますが、主治医、専門家と相談し、慎重に決めてください。
ミニ移植には、後ほど詳しく述べる特有の合併症があり、まだ完全に確立した治療法とはいえません。ミニ移植を受ける場合は、臨床研究という形でより良い治療法を開発している経験豊富な施設を選ぶことをお勧めします。
5)ミニ移植のドナーを探すにはどうしたらいいの?
「HLA」という白血球の型を調べるために、患者さん本人と、ドナー候補となる兄弟や家族等の採血を行う必要があります。ミニ移植を含めた同種移植を行うには、HLAがすべて一致した血縁者(兄弟、姉妹)が最適ですが、一致したドナーの方がいない場合、親子のHLAも調べてみる価値はあります。また、HLA-A、 B、DR各2つずつの計6個のHLAのうち1個だけが不一致の場合は、条件は少し落ちますが同種移植のドナーとなることができます。ただし、ドナーの方はあくまでも「ボランティア」です。幹細胞を採取する方法は100%安全というわけではありませんので、前もって問題となるような病気がないか検診を行う必要があります。特に、ミニ移植を受ける患者さんは高齢の方が多く、必然的にドナーの方も高齢者が多くなるため、慎重な対応が必要です。家族にドナー候補がいない場合は、骨髄バンクへの登録が考えられます。いずれにしても、このような点に関しては、ミニ移植も通常のフル移植と全く同じです。
骨髄バンクは、登録してから実際に移植するまでに最低でも3ヵ月はかかるため、同種移植が必要だとわかった時点で、早めに登録する必要があります。骨髄バンクでドナーの方が見つからない場合は、昔は同種移植を諦めていました。今では臍帯血(さいたいけつ)バンクで、ほとんどの患者さんがドナーの方を探すことができます。ただし、臍帯血バンクからの移植はまだ経験が浅く、合併症が多くなったり、GVL効果が十分に出ない可能性もあり、まだしっかりと確立した移植法とはいえません。同様に経験の浅いミニ移植と組み合わせる際には、慎重な対応が必要です。
2.ミニ移植の治療効果
1)ミニ移植の「適応」ってどういうこと?
「移植適応がある」というのは、「移植をやる価値がある」、「移植をお勧めする」ということです。もちろん、移植治療には完治(治癒)の可能性があるものの、一方では副作用も多く、容態が急に変わることもあります。ミニ移植であっても同じ危険が伴います。フル移植と同様に、治療に伴う危険性(移植関連死亡)とのバランスを見極めて、他の治療法とも比較しながら適応を考えていく必要があります。日本造血細胞移植学会から、2002年に移植適応に関するガイドラインが発表されています。しかし、その時点から現在までの移植分野での進歩は目覚しく、現状には合わない部分も多くみられます。特に、まだ治療経験の限られるミニ移植の適応については、病院や医師によってさまざまな意見があるため、セカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。
2)ミニ移植と比較して、化学療法の効果はどうなの?
化学療法の場合は、治療に伴う合併症で命にかかわるもの(治療関連死亡)が少ないという利点があり、病気の種類や進み具合(病期)によっては、化学療法のみでも完治(治癒)が十分期待できる場合もあります。しかし、白血病細胞、リンパ腫細胞の中には、多量の抗がん剤を使っても絶滅させることが難しい場合もあります。化学療法後の治療不成功の原因は、ほとんどがもとの病気の再発であることが現実です。ミニ移植では「GVL効果」が継続しますので、再発を抑える効果が強くなり、完治(治癒)する可能性も高まります。一方、後に述べる副作用も多く、短期的(図7の↑の時点)にみると成績は化学療法に劣ります。治療効果とのバランスを十分に考えて判断する必要があります。
3)ミニ移植と比較して、自家移植の効果はどうなの?
「自家移植」では、前処置として用いる非常に大量の化学療法(あるいは放射線照射)が治療の中心で、移植は正常な血液が回復するための補助手段にすぎません(図1上段)。自家移植では、自分自身の幹細胞をあらかじめ凍結して保存しておきます。前処置として非常に大量な抗がん剤や、全身に放射線をあてることで体の中にあるがん細胞をやっつけ、そのあとで自分の幹細胞を戻してやる治療法です。毒性のある抗がん剤や放射線をこれだけ大量に使うのですが、「ミニ移植」よりも命にかかわる合併症は少なく、移植関連死亡は5~10%以下です。全身状態によっては、60歳代の患者さんにも行うことができます。
一方、自家移植ではドナーの免疫力によるGVL効果はないため、再発が問題になります。いかに大量の抗がん剤を用いたとしても、がんの種類や状態によっては全滅させることが困難な場合があります。また、戻す幹細胞の中に混じったがん細胞があとから殖えて、再発する場合もあります。
4)ミニ移植と比較して、(従来型の)同種フル移植の効果はどうなの?
「同種フル移植」は、非常に大量の抗がん剤や全身に放射線をあてる「前処置」の効果と、移植後の「GVL効果」の両方が期待できるため、再発を抑える効果からみると最強の治療法になります(図1中段)。しかし、患者さん自身の健全な臓器、例えば肝臓、心臓や腎臓等が障害を受けることも多く、命にかかわる合併症(移植関連死亡)の頻度もミニ移植よりもはるかに多いため、若くて全身状態が良い患者さんにしか行えません。
5)ミニ移植だと、移植後の再発が増えてしまうの?
移植の直前に投与する抗がん剤(放射線)の量が少ないので、増殖スピードが速いがんでは、ミニ移植後に再発が多くなる可能性があります。そのため、同種フル移植が可能な全身状態の良い若い患者さんでは、ほとんどの場合はミニ移植よりも同種フル移植を、まずお勧めしています。ただし病気の種類によっては、年齢が若くてもフル移植ではなく、ミニ移植を選択する場合もあります。
GVL効果が出やすい濾胞性(ろほうせい)リンパ腫では前処置でがんの量を減らさなくてもいいため、移植関連死亡が少ない分、ミニ移植のほうが生存率が高くなる可能性があります。これらの報告でみる限り、再発の頻度はフル移植もミニ移植もあまり変わりません。
また、ミニ移植で移植後早期の合併症を減らし、あとからドナーのリンパ球を投与する「ドナーリンパ球輸注」を行って再発を減らすという選択肢もあります。
特にろほう性リンパ腫では、ミニ移植のほうがフル移植よりも生存率が高いです。ミニ移植では、フル移植よりも移植関連死亡(赤字)が少なく、再発・進行はそれほど変わりません。Kim ほか Blood. 108(1):382, 2006 KusumiほかBone Marrow Transplant. 36(3):205, 2005
6)HLAが一致する兄弟以外がドナーの場合、ミニ移植の効果はどうなの?
「ミニ移植」の経験の多くは、HLAが一致した兄弟からの末梢血幹細胞を用いたものです。骨髄バンクや臍帯血バンク、あるいはHLAが不一致のドナーの方からのミニ移植は効果が出る可能性はありますが、まだ十分に確立したものではありません。
HLAが不一致の移植の場合は、GVHDやGVL効果がより強く出ると考えられています。また、骨髄バンクドナーからの移植の場合は、HLAが一致していても他の細かな部分(マイナー抗原とも呼びます)の違いのために、HLA一致血縁ドナーの場合よりもGVL効果が強くなる可能性があります。GVL効果が強くなるというのは、再発が減るという点では喜ばしいのですが、その分GVHDも強くなるため、感染症や移植関連死亡も増加してしまいます。特に高齢の患者さんでは、GVHDもより強くなってしまいます。HLAの一致する血縁者以外のドナーの方(代替ドナーと呼びます)からのミニ移植については、「臨床試験」に参加していくことで、疾患ごとに最適な方法を見いだしていく必要があります。
また、幹細胞の種類によって、輸注されるドナーのリンパ球の量も大きく異なる(末梢血>骨髄>臍帯血)点も、ドナーのリンパ球によるGVL効果に依存しているミニ移植では、大きな問題となります。
7)どんな病気に対して、ミニ移植は有効なの?
病気の種類ごとに、ドナーの免疫力によるGVL効果の強さは大きく異なります。一般的には、ゆっくり増殖するタイプの白血病やリンパ腫に対して、「ミニ移植」は特に有効です。
<悪性リンパ腫>
悪性リンパ腫の治療方針を決めるうえで最も重要なのは、組織型の確認です。化学療法や放射線療法がうまくいっていないときは、セカンドオピニオンの際に、リンパ節生検の標本(病理診断)も再確認してもらいましょう。
濾胞性リンパ腫は化学療法による完治(治癒)は困難で、GVL効果が十分期待できるため、ミニ移植の非常に良い適応です。しかし進行は非常にゆっくりで、化学療法やリツキシマブなども一時的には有効であるため、すぐにミニ移植を行う必要はありません。ただし「びまん性」に形質転換したあとでは、GVL効果が現れにくくなる(移植の成功率が低下する)可能性もあります。したがって、タイミングを逃さずにミニ移植を行えるように早めにHLA検査を行い、ドナーの有無を確認しておくことをお勧めします。
3.ミニ移植の副作用
1)ミニ移植にはどんな副作用があるの?
ミニ移植は高齢者に可能な移植法といわれていますが、移植治療である以上、命にかかわる合併症(移植関連死亡)が少なくとも20%以上あります。ミニ移植後にはさまざまな合併症が起こりますが、中でも移植片対宿主病(GVHD)と感染症が最も重要な副作用です。
ミニ移植では、白血病をやっつけるためにGVL効果に頼っているので、同種フル移植の場合よりもGVHDとGVL効果のバランスをとるのが難しくなります。また、GVHDや感染症等の合併症の出方が同種フル移植と異なる点も多いため、その違いに重点をおいて説明していきます。
ドナーのリンパ球の免疫力は、GVHDとGVL効果の「もろ刃の剣」となります。ミニ移植は、白血病をやっつけることをGVL効果に頼っているので、同種フル移植の場合よりも、この2つのバランスをとることが難しくなります。
2)ミニ移植の「移植前処置」では、どんな副作用があるの?
同種フル移植と比べると、ミニ移植では使用する抗がん剤の種類や量が異なるため、副作用は少なくなります。
フルダラビン
患者さんの免疫力を落としてドナーの幹細胞を生着させるために、ほとんどのミニ移植で用いられる注射剤です。吐き気などの副作用もほとんどなく、これ自体では白血球数はあまり減らないほどです。
ブスルファン
同種フル移植では、1日4回で4日間(計16回)飲み薬を服用しますが、ミニ移植では2日間(計8回)と半分になります。痙攣(けいれん)を起こす可能性があるため、痙攣予防の薬も一緒に使います。投与時には吐き気、時間がたってからは肝臓の障害や脱毛等を来す可能性があります。平成18年10月からは注射剤も使用可能になりました。
メルファラン
特に、臍帯血バンクや骨髄バンクのドナーの方からのミニ移植のときなどに用いられる注射剤です。口内炎や下痢などの粘膜障害が出てくる可能性があります。
シクロホスファミド
ミニ移植では、同種フル移植のときよりも減量して用いることが多い注射剤です。吐き気、出血性膀胱炎(しゅっけつせいぼうこうえん)、心不全を合併する危険があるため大量の点滴が必要で、体重や尿量をみながら利尿剤(おしっこを出す薬)を用います。
全身放射線照射
同種フル移植では、全身放射線照射を1日2回で3日間(計6回)に分けて行います。骨髄バンクや臍帯血バンクからのミニ移植のときには、きちんと生着させるように1日だけ(計1~2回)全身放射線照射を用いることがあります。
3)ミニ移植後にドナーの細胞が「生着」するまでには、どんな副作用や合併症があるの?
同種フル移植と比べて、ミニ移植は移植後早期に血液培養で細菌が検出される頻度は少なくなります。しかし、ドナーの白血球が増えてくる(生着してくる)までは感染症の危険性が高く、注意が必要です。(白血球の中で細菌などをやっつける役目がある)好中球がゼロになる時期は、特に緑膿菌(りょくのうきん)などのグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)が血液に感染すると、1~2日の経過で命にかかわることもあります。熱が出たときには、すぐに血液培養や抗生剤点滴を開始するなど、素早く対処する必要があります。
フル移植と比べると少ないのですが、ミニ移植後でも口の中やのどの粘膜が荒れて痛みがあったり、貧血や血小板減少に対して輸血を行ったり、下痢、腹痛等に対して痛み止めの点滴を用いることがあります。また、白血球が増えてくる時期に、発熱、皮膚の赤み、息苦しさ、下痢、体重増加等の症状が出るときがあります(まれに白血球が増えてくる前に出現することがあります)。ドナーのリンパ球による免疫反応と考えられ、広い意味での急性GVHDですので、症状に応じてステロイドホルモンで治療します。
4)「生着」からミニ移植後100日ごろまでには、どんな副作用・合併症があるの?
「急性GVHD」は、皮膚の赤みや皮疹(ひしん)、下痢(1~2L以上になることもあります)、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)、体のだるさ、黄疸(おうだん)、発熱等の症状がみられます。通常の移植の場合には、白血球が増えてから(移植後1ヵ月ごろ)出てくることが多いのですが、ミニ移植の場合は、免疫抑制剤の減量を開始した移植2~3ヵ月後に起こることもあります。ミニ移植で非常に大切なことは、がん細胞をやっつけるドナーの免疫の力(GVL効果)と、副作用としてのGVHDのバランスをうまくとりながら治療することです。ただ、これは口でいうほど簡単ではありません(図10)。
シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制剤は、採血で血液の中の濃度を確認しながら投与していきますが、免疫抑制をあまり強くかけすぎると、ミニ移植後にもとの病気が再発しやすくなります。逆に、GVL効果を無理に誘導するためにミニ移植後1~2ヵ月で免疫抑制剤を中止してしまうと、コントロール困難なGVHDを起こし、合併症で命を落としてしまうことになります。ミニ移植を受ける患者さんの大半は高齢のため、急性GVHDやその治療の過程で合併してくる感染症に耐え切れない場合も多く、注意が必要です。
図10:同種(ミニ)移植後のGVL効果とGVHD
免疫抑制を強くかけすぎると、GVHDは予防できますがGVL効果が弱くなり再発しやすくなります。一方、免疫抑制を無理に減らすとGVL効果で再発・進行は抑えられますが、GVHDが重症化してしまいます。
感染症に関して、とかくミニ移植は安全と誤解されやすいのですが、「サイトメガロウイルス感染症」と「アスペルギルス感染症」は従来の同種フル移植とミニ移植では頻度が変わりませんので、特に注意が必要になります。
5)「生着不全」や「混合キメラ」というのはミニ移植で多いの?
ドナー由来の細胞と、もとの患者さん由来の細胞の割合を調べる遺伝子検査のことを、“キメリズム検査”と呼びます。95%以上がドナー由来のときを「完全キメラ」、ドナーの細胞と患者さんの細胞が混在している状態を「混合キメラ」と呼びます。キメリズム検査では(保険では認められていませんが)、最も大事なTリンパ球だけに純化してから調べるほうが、より正確な情報が得られます。
ミニ移植では通常の移植よりも前処置が弱く、ドナーの細胞が患者さんの骨髄へ根づかずに拒絶されること(生着不全と呼びます)や、両者の細胞が混在する「混合キメラ」となる場合が多くなります。ただし生着不全の場合でも、ミニ移植ではもともとの自分の細胞が徐々に増加してくることもあります。また、いったん生着して「混合キメラ」となっていたのに、ドナー細胞が徐々に減少して最終的に拒絶される「二次性生着不全」もよくみられます。
以前は、ミニ移植後に「混合キメラ」になった場合に、早めに「ドナーリンパ球輸注」を行って「完全キメラ」にしようとしていましたが、その後のGVHDなどの合併症が多すぎることがわかりました。現在では、明らかな再発がない限り「ドナーリンパ球輸注」は行わず、免疫抑制剤の調節のみで経過をみることが増えてきています。
6)ミニ移植後100日以降は、どんな長期的な副作用があるの?
ミニ移植後100日以降も、慢性GVHDを合併する可能性があります。特に、肺の慢性GVHDを合併すると重症になりやすいため、定期的に肺機能検査を行ったり、息苦しさやせき等の症状があるときには詳しい検査をする必要があります。
慢性GVHDの治療は、プレドニゾロンというホルモン剤が治療の中心です。症状が良くなった後も慎重にゆっくりと減量していく必要があり、数ヵ月から1年近く服用しなければならないこともあります。特にミニ移植では、GVL効果を強く出したいがためにプレドニゾロンを急速減量してしまい、肺の慢性GVHDなどで苦労する場合が増えています。慢性GVHDに対する治療中は、細菌、真菌、ウイルスに対する抵抗力が弱くなっています。特に、肺炎球菌が血液に感染する敗血症やカリニ肺炎等は命にかかわってくることもありますので、免疫抑制剤を服用している間は「バクタ」という予防薬の内服を続けます。
http://ganjoho.ncc.go.jp/public/dia_tre/treatment/zouketukan/miniisyoku.html#zu01
退院しての生活は結構快調
退院しての生活は結構,快調。
家事をしてもきつくないので、家の中も片付いた。
でも脚力がまだ駄目なので、2階へはまだ上がっていない。
目下の目標は筋力をつけることと、頑張って食べて体重を増やすこと。
でも生まれてこのかたずっと痩せで通してきたから、体重を増やすことは
なかなか大変なことです。
昨日は車で一週間分の食料の買出しに行った。
ウイッグをかぶって行ったが、人の髪型がやたら気になってしまう。
この週末はまた白血球が下がる時期。当分は家におとなしく篭っての
生活をするつもりです。退屈しそう。。。