ベキサール H18

放射性免疫療法薬「ベキサール」の開発について

tositumomab(Bexxar、ベキサール)は、抗CD20抗体に放射性物質ヨウ素131を抱合させた放射性免疫療法薬です。リツキシマブ(リツキサン)は、正常なB細胞および大半のB細胞性リンパ腫細胞に発現しているCD20抗原を標的として作用が現れる薬剤ですが、ベキサールは標的を発現している細胞のみならず、標的を発現していない隣接する腫瘍細胞に対しても放射線が作用して、抗腫瘍効果が現れることが期待される薬剤です。ベキサールは、同じ放射性免疫療法薬に属するゼヴァリンと異なりγ線を照射するため、放射線の遮蔽などに、より配慮が必要となります。

米国では、2004年にFDAによって、主に再発、難治性の低悪性度リンパ腫の患者さんを対象に承認されています。ゼヴァリンは厚生労働省への申請が終了していますが、ベキサールの国内での開発は未だ行われていません。2005年2月に国際的な医学誌である『New England Journal of Medicine』誌に、未治療の濾胞性リンパ腫の患者さんを対象とした臨床試験の結果が発表され、5年無進行生存率が59パーセントという結果が示されています。

131I-Tositumomab Therapy as Initial Treatment for Follicular Lymphoma
Mark S. Kaminski, M.D., Melissa Tuck, M.A., Judith Estes, M.S.N., N.P., Arne Kolstad, M.D., Ph.D., Charles W. Ross, M.D., Kenneth Zasadny, Ph.D., Denise Regan, B.S., Paul Kison, B.S., Susan Fisher, B.A., Stewart Kroll, M.A., and Richard L. Wahl, M.D.

グループ・ネクサスでは、ベキサールの国内での早期の開発を求め活動してきました。2006年1月に開催された厚生労働省の第7回未承認薬使用問題検討会議において、「同種の薬剤であるゼヴァリンとの有意差は明らかではない」とのワーキンググループの報告を受け、「未承認薬使用問題検討会議による迅速対応のスキームの対象とする必要はない」との結論が出されました。未承認薬使用問題検討会議の結論などを受け、グラクソ・スミスクライン社ではベキサールの国内での開発を検討してきました。グラクソ・スミスクライン社とグループ・ネクサスとで話し合いの場をもち、グループ・ネクサスからの要望に対して、グラクソ・スミスクライン社より下記の回答をいただきました

現在、放射性物質の取り扱いや運搬などの事情により、ベキサールが承認されているのは米国とカナダだけです。自由診療の形でベキサールの海外での使用について考慮なさる場合には、まずは主治医の先生とよく話し合われてください。主治医の先生が了承されましたら、主治医の先生にベキサールの治療が可能な海外の医療機関と、直接コンタクトをとっていただいてください。ベキサールの治療が可能な医療機関および連絡先につきましては、米国MDアンダーソンがんセンターの他に、グラクソ・スミスクライン社よりいくつか情報提供を受けておりますので、主治医の先生よりグループ・ネクサスまでお問い合わせください。

なお、米国でのベキサールの薬価は、レッドブック(米国での薬価収載本)によりますと、1回の治療につき31,200USドルで、日本円に換算しておよそ363万円(2006年7月22日レート)になります。また、下記回答書中のゼヴァリンとベキサールの比較臨床試験については、こちらです。

Comparative Trial Between Bexxar and Zevalin

http://homepage3.nifty.com/webpage3/nexus/topicsdetail08.html

リツキサン その1

(1)B細胞型の非ホジキンリンパ腫に有効な新しい薬
監修:増田道彦 東京女子医科大学血液内科講師
文:平出 浩 (2005年02月号)

リツキサンは悪性リンパ腫の一つである非ホジキンリンパ腫に効果のある薬です。
ほかの薬と組み合わせて治療を行うR-CHOP療法は、標準治療になりつつあります。
リツキサンの登場で非ホジキンリンパ腫の治療は新たな段階になったといえます。

がん細胞を標的として結びつくように設計された薬
従来の化学療法に比べ副作用が少ない
リツキサンは、非ホジキンリンパ腫に用いる薬で、モノクローナル抗体薬の一つです。2001年に発売が開始された比較的新しい薬です。

白血球の一種であるリンパ球には、B細胞やT細胞などがあり、リツキサンはこのうち、B細胞が悪性化するタイプの非ホジキンリンパ腫に使用します。非ホジキンリンパ腫とは、悪性リンパ腫(リンパ球が悪性化する病気)の一つで、もう一つの悪性リンパ腫であるホジキン病に比べると、日本人に多い疾患です。ホジキンリンパ腫が20~30歳代と60歳以上の人に多いのに対し、非ホジキンリンパ腫は50歳代以上がピークとなっています。

抗体とは、細菌などの体にとっての異物を認めると、その異物と結びついて免疫系がそれらを体から排除するのを助ける働きをします。

モノクローナル抗体薬は、がん細胞などを標的として結びつくように遺伝子工学的に設計された抗体です。モノクローナル抗体薬であるリツキサンは、悪性化したBリンパ球と成熟段階にある特定の正常Bリンパ球に存在しているCD20というタンパクに結合します。リツキサンと結合したリンパ腫細胞に対して免疫反応が強く起こり、貧食細胞(マクロファージ)がリンパ腫を異物と認識して、食べたり、破壊したりします。CD20という目印のあるタンパクにだけ結合するので、従来の化学療法に比べ、正常細胞への副作用が少ないのが特長です。

海外のデータによると、リツキサンプラス化学療法を行った患者群は、化学療法単独の患者群に比較して、長期生存する人が10パーセント多くなっています。10パーセントというと大きな差がないようですが、悪性リンパ腫における長期生存とは病気が治癒したとほぼ同じ意味で、それが10パーセント改善するのは画期的なことです。

リツキサンは点滴で投与されます。患者の体表面積から1回あたりの治療に必要な量を計算し、最大8回投与します。通常、初回は入院して行うことが多いのですが、2回目以降は一般的に外来で行うことになります。

標準的になってきたR-CHOP療法
リツキサンは単独で用いることもありますが、ほかの薬と組み合わせて治療を行うこともあります。特に近年、効果が期待されている治療法がR-CHOP療法です。

R-CHOPのRはリツキサンのことで、CHOPとは、エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)の4種類の抗がん剤の組み合わせのことです。

非ホジキンリンパ腫に対する標準的な治療法はこれまで、CHOP療法でした。しかし、リツキサンが開発・販売されてからは、B細胞型の非ホジキンリンパ腫に対しては、CHOP療法にリツキサンを加えたR-CHOP療法が標準的になってきています。

R-CHOP療法は、通常、6~8コース(1コースは21日間)行います。リツキサンは、最初の治療は原則として入院して受けることが多いのですが、2回目以降は、特に大きな問題が起きなければ、通院して受けるのが一般的です。

副作用は発熱、悪寒、虚脱感など
リツキサンの主な副作用には発熱、悪寒、虚脱感、かゆみ、頭痛、ほてり、血圧上昇、頻脈、多汗、発疹などがあります。これらは通常、比較的軽微な副作用です。

血液に関する異常では、白血球の減少、好中球の減少、血小板の減少などが現れることがあります。

重篤な症状としては、アナフィラキシー様症状、肺障害、心障害などの副作用があります。まれではありますが、肺浸潤や心筋梗塞、心室細動などを引き起こし、亡くなったケースもあります。

リツキサンの副作用の多くは、初めて行う治療中に起こり、治療が終わるころまでか、遅くとも1日経てば、ほとんど症状がなくなるか、軽くなります。2回目以降の治療では、副作用は減少しますが、2回目以降に初めて副作用が現れることもありますし、それまでと異なる副作用が現れることもあります。

副作用に対する予防法として、リツキサンの点滴を行う前に、抗ヒスタミン剤と解熱鎮痛剤を内服します。

リツキサンとほかの治療法を併用すると、リツキサンの副作用に加えて、併用する治療法の副作用が出ることがあります。R-CHOP療法を行った場合は、短期的な副作用では、吐き気、白血球の減少、血小板の減少、貧血など、長期的な副作用では、脱毛、手足のしびれ、心臓に対する悪影響などが起こることがあります。

また、リツキサンは血圧に影響することもあるので、高血圧に関する薬を服用されている場合は、あらかじめ主治医に相談したほうがよいでしょう。

薬である以上、副作用には注意が必要ですが、リツキサンの登場によって、非ホジキンリンパ腫の治療は新たな段階を迎えました。いま大きな期待を寄せられている薬の一つです。

■リツキサンの副作用 一般的な副作用
・発熱、悪寒、かゆみ、頭痛、ほてり、血圧上昇、頻脈、多汗、発疹、白血球減少、好中球減少、血小板減少など

重い副作用
・アナフィラキシー様症状、肺障害、心障害など

R-CHOPの副作用
・吐き気、白血球の減少、血小板の減少、貧血、脱毛、手足のしびれなど

BexxerとZevalin比較

BexxerとZevalin比較

Lymphomation Org
http://www.lymphomation.org/compare-bexxar-zevalin.htm

2004/8/18
患者はしばしばこう尋ねます。「どちらの治療薬のほうがいいのですか?」
これらの治療薬は直接対決で比較研究は行われていません。したがって、われわれは確信を持ってどちらがいいかを述べることはできません。
おそらく、これらの治療薬の特性を列挙し、個人の治療環境に合った選択肢を専門医に尋ねることが役に立つでしょう。
これらの治療薬は比較的新しいので、地域の腫瘍医らは両者の相違点を詳しく検索する時間は取れていないかもしれません。

特性

Bexxar
(tositumomab)

Zevalin
(Ibritumomab tiuxetan)

■ 抗体
マウス
anti-CD20 抗体

マウス
anti-CD20 抗体

■ FDA承認適応の基準
リツキシマブに抵抗性になった、化学療法後再発の、CD20陽性の濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)患者への治療。転換のあるなしを問わない Bexxar.com

再発性または難治性の低悪性度、濾胞性または転換したB細胞性非ホジキンリンパ腫。この適応はリツキサンRituxan (rituximab)に難治性濾胞性NHLを含む。Zevalinは、リツキサン治療を含むものとして承認された。Zevalin.com

■ 患者一人当たりのコスト
この比較は別のソースからの大まかな見積もりである。      (略)

投与量決定

線量測定
固定量?または体重と治療前血小板値

投与量/移動-正常細胞への放射線吸収量

甲状腺へ
肝臓へ(肝臓:体全体レシオは8:1である。肝臓への投薬量は900cGyと見積もられることに注意)

裸抗体の前投与

あり

あり

ラジオアイソトープ-放射物

Iodine131
ガンマ線とベータ線を放射

Ytrium 90
ベータ線を放射

ラジオアイソトープ-クリアランス

速い

遅い

ラジオアイソトープ-半減期

8日

(2.7日)

ラジオアイソトープ-波長

短い

長い

標的

成熟B-cellのCD20受容体

成熟B-cellのCD20受容体

野中 希  訳
Dr. Saru  監修

http://www.cancerit.jp/archive37Bexxar.html#2bvz
  

ゼパリン

ゼパリン

Limphomation.org
http://www.lymphomation.org/zevalin.htm

ゼバリン(Zevalin:Ibritumomab tiuxetan) は賢い爆弾のように働く。ゼバリンは放射線を付帯する抗体で、CD20と呼ばれる受容体を持つ細胞を探し当てると結合する。その細胞は正常細胞と悪性細胞どちらの成熟B-cellにも現れる。

ひとたび標的細胞に結合すると、ゼバリンは放射線を出し、抗体の殺傷効果を高める。正常B-cellは約9ヶ月で回復する。なぜなら親B-cellはCD20受容体を持たないからである。

リツキサン(付帯物のついていない抗体)はゼバリン投与前に、大多数の正常B-cellを清浄しゼバリンの毒性を減少させる目的で投与される。

適応:再発性または難治性の低悪性度、濾胞性または転換B-cell非ホジキンリンパ腫。リツキシマブに難治性濾胞性非ホジキンリンパ腫を含む。

ゼバリンの生存率への奏功はわかっていない。

禁忌(適応でない):マウスたんぱく質へのタイプ1(注)の過敏性を有することが知られている場合、またリツキサン、イットリウム塩化物、インジウム塩化物を含むこの製品の成分への過敏性を有する場合。

ゼバリンは25%以上リンパ腫の浸潤した骨髄を保有する場合、そして(又は)骨髄の予備能が損傷されている場合は投与するべきではない。

(注)Ⅰ型アレルギー:即時型過敏症

参考HP:悪性リンパ腫「グループ・ネクサス」
http://homepage3.nifty.com/webpage3/nexus/#whatsnew

内村美里人 訳
Dr.Saru 監修

http://www.cancerit.jp/archive37Bexxar.html#2zvl

Bexxar

Bexxar二重作用放射性抗体薬/ミシガン大学

ミシガン大、FDA承認(2003/6)以来初のリンパ腫Bexxar療法レジメン治療を実施2004/1

January 1, 2004
First lymphoma patients treated with BexxarR therapeutic regimen at UMHS since FDA approval

Mark Kaminski, M.D氏とそのグループは、10年以上前にこの新しい治療法の開発を始めていた。今回、Kaminskiは、FDA承認(2003/6)以来初めての患者にBexxar治療を施した。

「Bexxarは治療の革新である。と、Kaminski氏(co-director of the Leukemia/Lymphoma/Bone Marrow Transplant Program at the U-M Comprehensive Cancer Center-ミシガン大総合がんセンターの‘白血病、リンパ腫、骨髄移植プログラム’共同ディレクター)は言う。Bexxar以前は、ほとんどの治療は、化学療法と外部照射療法に頼っていたが、それらは必ずしも効果を得られず、患者にとって毒性のある治療あった。これまでの化学療法と放射線療法が癌細胞だけでなく、正常細胞も殺傷するのに対し、Bexxar療法のレジメンは、癌細胞だけを標的とする放射物を使用する。患者は、何クール、何ヶ月もの化学療法の代わりに、たった1本の注射を打つだけである。そして副作用もきわめて少ない。

Kaminski氏は、臨床試験でBexxarを使用してきたが、6月(2003年)にFDAは、他の治療に抵抗性となったノンホジキンリンパ腫(NHL)に対する治療として認可した。メディケア(高齢者向け医療保険制度)は、Bexxar治療に保険を適用すると発表した。(略)

Bexxarは、化学療法を受けた濾胞性リンパ腫への使用に認可された。Bexxar は、腫瘍標的とする抗悪性新生物(抗癌)モノクロナール抗体(Tositumomab)と、個別に放射線量を設定する治療法をあわせもった二重作用の治療法である。組み合わされることによって、これらの物質は、放射性標識化モノクロナール抗体となり、体中を巡って癌細胞上に発見された標的とする抗原に結合することができる。したがって、癌細胞に対して免疫反応を誘引し、また放射性物質を直接腫瘍へ運ぶことになる。Bexxarは、個別に指定されたクリアランス値に基いて投与できる唯一のNHL治療であり、それぞれの患者に応じて前もって決められた線量の放射性物質を運ぶことが可能となった。

「実際、B-Cellと呼ばれるリンパ球から発生するすべてのリンパ腫は、細胞表面にCD20という蛋白質を持つことがわかった。」と、ミシガン大学核医学パイオニアであるRichard Wahl, M.D.氏 (現在Johns Hopkins University Medical Center核医学教授)とともに治療を開発してきたKaminski氏は述べた。

「我々がラジオアイソトープを組み合わせた抗体は、このCD20というターゲットに絞って認識し、しっかりと付着する。したがって、この抗体を血流に導入すると、それは、このターゲットを持つ細胞やものに自然と結合する。」

一旦、それがCD20に結合すると、ラジオアイソトープが強力な粒子を放出、腫瘍細胞に突撃し、その周辺の癌細胞だけを殺傷する。

Bexxar治療は、患者を嘔気や脱毛といった副作用から解放するだけでなく、化学療法より速い。化学療法が、3~4週間サイクルで6~8ヶ月かかるのに対し、Bexxarは1週間以内で終了する。

治療の初日に患者はBexxarのテスト投与のための注射を打つ。それによって、患者の体が標識Bexxarをどのように処理するかをみる。核医学スキャンでBexxarがどのくらいの速度で腫瘍に達し、また放射性物質がどのくらいで患者の体から消失するかを判定する。その時点で、腫瘍医はその患者に応じたBexxarの投与量をきめる。患者は、テスト注射から1週間で治療を始める。患者は合計で4回の通院ですむ-1回目テスト投与、2、3回目核医学スキャン、4回目治療投与である。

「治療はそれで終わりです。再度のサイクルなどはありません。患者は帰宅し、治療は投与された瞬間から効果を表し始めるのです。」とKaminski氏は言う。

6~8週間でCTスキャン、身体、血液の検査をうけて治療の効果があったかどうかみます。医師はこのとき、そのリンパ腫が寛解に至ったかどうか判定できるのです。

Bexxar治療を受ける患者の多くが、すでに何サイクルもの化学療法を受けており、通常の抗癌剤に反応しなくなっています。昔から、NHLの予後はよくありませんが、この臨床試験で、70%の患者がBexxarに反応し、20~30%の患者が完全寛解-画像診断でも生検でも一切リンパ腫が認められない状態に至っています。

この治療の有望なところは、かつてないほど多くの患者が、副作用もなく病気なしに暮らせることです。このことは、もはや選択肢のなくなった患者に、あらたなオプションと希望を提供するでしょう。」と、Kasinski氏は語った。

http://www.med.umich.edu/opm/newspage/2004/bexxar.htm

製品情報
BexxarR / Corixa Corp., GlaxoSmithKline
HP: www.bexxar.com                                           
     
                
野中 希 訳

http://www.cancerit.jp/archive37Bexxar.html#1nshkb

厚生労働省班研究 ミニ移植プロトコール

厚生労働省班研究 ミニ移植プロトコール

骨髄非破壊的前処置療法を用いた同種造血幹細胞移植に関する研究
~骨髄非破壊的前処置療法の有用性、ならびに急性GVHDの予防方法に関する検討~

試験デザイン: 骨髄非破壊的前処置療法

                  day -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1  0
リン酸フルダラビン 30mg/m2/day ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
ブスルファン     4mg/kg/day         ↓  ↓
幹細胞移植                                           ↓

本研究では、従来の前処置療法と比較して治療関連毒性が軽い骨髄非破壊的な術前療法を用いて50歳以上70歳未満の患者を対象としたミニ移植術を行い、高齢者における本治療法の有用性(安全性・有効性)を検討する。またGVHD予防を本研究の前処置で広く用いられているシクロスポリン単剤による方法と、シクロスポリンとメトトレキサートの併用による方法の2群に無作為に割り付ける(各群30例、計60例)ことにより急性GVHDの予防方法に関する検討を行う。

総括責任医師: 高上洋一 (国立がんセンター中央病院)
本試験に関わる業務を統括する医師

試験調整医師: 峯石真(国立がんセンター中央病院)
本試験に関わる業務の総括的な責任医師

試験責任医師・試験分担医師: 各施設より任命
参加各施設で、試験に関わる業務を分担し、運営事務局との連絡を担う。

運営事務局責任者: 神田善伸 (東京大学無菌治療部)
運営事務局の業務の責任医師

お問い合わせは東京大学無菌治療部 神田善伸
TEL: 03-3815-5411内線30672 FAX: 03-5804-6261 E-mail:
宛にお願いいたします。

背景 ミニ移植後の急性GVHDの発症について

移植術前療法に伴う組織障害に由来するサイトカインの放出が急性GVHDの発症に関連しているという仮説から、術前療法を弱くしたミニ移植では急性GVHDが減少することが予想された。また、ドナー細胞と患者細胞との混合キメラ状態が生じやすいことも急性GVHDが減少する方向に働くかもしれない。しかし、実際には、急性GVHDの発症頻度は通常の移植と比較して大きな差はないようである。その一因として、ミニ移植の場合は、GVL効果を十分に得るために、GVHD予防を弱くしたり、あるいは早期に中止したりしていることが考えられる。しかし、ミニ移植においてもGVHDは最も重篤な移植合併症であり、どのようなGVHD予防方法が最適であるかは、未解決の問題である。フルダラビンとブスルファンを用いたミニ移植においても、Slavinらはシクロスポリン単剤でのGVHD予防を行っているのに対して、ドイツのグループはシクロスポリンとメトトレキサートあるいはミコフェノールを併用したGVHD予防を行っている。特に、GVHDに対する予防効果の期待できるATGの投与を省いた場合には、よりGVHDの頻度が高くなることが予想される。

目的
本研究では、従来の前処置療法と比較して治療関連毒性が軽い骨髄非破壊的な術前療法を用いて50歳以上70歳未満の患者を対象としたミニ移植術を行い、高齢者における本治療法の有用性(安全性・有効性)を検討する。またGVHD予防を本研究の前処置で広く用いられているシクロスポリン単剤による方法と、シクロスポリンとメトトレキサートの併用による方法の2群に無作為に割り付けることにより急性GVHDの予防方法に関する検討を行う。なお本研究において骨髄非破壊的前処置療法を用いた同種造血幹細胞移植の有用性(安全性・有効性)が確認された場合には、他に有効な治療法がない多くの患者を救済することを目的として、前処置療法)に用いた薬剤の輸入販売会社に対して適応症追加申請を行うように要請する。これにより、班研究成果の社会への還元を図る。

主要評価項目
ミニ移植における抗腫瘍効果の理念がドナー由来の造血細胞による免疫作用に基づくことから、以下の2つの条件を満たした場合には安全にドナー由来の造血を確立したと判断できると考え、主要評価項目とした。
① 移植後100日時点での生存
② ドナー型完全キメラの達成 (移植後day 90±5の時点でdonor由来細胞が90%以上)

副次的評価項目
移植後1年の生存率および無病生存率

2-2-1前処置の毒性(移植後20日以内、付表4参照)
2-2-2GVHDの頻度・重症度の検討(付表3参照)
2-2-3造血回復までの期間、完全キメラ達成までの期間
2-2-4移植後の免疫能回復(CD4/8/19陽性細胞、IgG/A/M定量)
2-2-5術前療法に用いる薬剤の薬物動態
2-2-6DLIによる移植片拒絶の防止、抗腫瘍効果
2-2-8疾患ごとの生存率、無病生存率(CMLにおいてはbcr/abl mRNAの評価を含む)

試験薬剤
本研究に対しては、日本シエーリング社からリン酸フルダラビンが無償供与される。この薬剤は国立がんセンター中央病院薬剤部で保管し、症例毎に冷蔵宅急便を用いて各施設に配布する。

適格条件
本研究の対象は、参加施設において治療を受ける患者のうち、他の治療では治癒や長期生存の確率が低いような病気や病状であり、同種造血幹細胞移植の適応であると考えられる状態にあるにもかかわらず、高齢であるがために通常の血縁/非血縁者間同種造血幹細胞移植の適応にならない患者とする。血清学検査において、HLAのA/B/DR座が完全(6座)一致の同胞ドナーを有し、説明同意書を用いて同意を得た者について行う。
ただし、登録は仮登録と本登録の二段階に分けて行う。すなわち、患者から文書で同意を取り、仮登録前2週間以内に必要な検査を実施し、4-1-1~4-1-3および4-2に示す仮登録に必要な条件をすべて満たすことを確認した上で仮登録を行い、ドナーの末梢血幹細胞の採取・凍結保存を行う。後述する必要量の幹細胞が得られた場合、本登録前1週間以内に必要な検査を実施し、4-5に示す本登録における除外条件を確認した上で、本登録を行う。ドナーから十分な幹細胞量が得られなかった場合、あるいは本登録における除外条件に該当した場合で、仮登録後の不適格症例と判断された場合についても、必ず、本登録を行わない旨、およびその理由をデータセンターに連絡する。なお、前処置薬の投与は、本登録後1週間以内に開始する。

4-1-1 以下のいずれかの疾患を有する者。
急性骨髄性・リンパ性白血病(AML・ALL)の第一・第二寛解期(付表1参照)
通常の化学療法での治癒が困難と考えられる場合に限られる(付表1参照)。
慢性骨髄性白血病(CML)の第一・第二慢性期
慢性骨髄性白血病についてはヒドロキシウレアなどの投与により末梢血白血球数が1万/μl以下にコントロールされていることを条件とする。また、インターフェロンやイマチニブによって細胞遺伝学的完全寛解が得られている症例は除外する。

骨髄異形成症候群(MDS)のFAB分類でのRA、RARS、RAEB
RA、RARSについては好中球500/μl未満あるいは輸血依存性の症例に限定する。RAEBについては抗癌剤を使用することなく1ヶ月以上RAEBの基準を満たす状態にある安定した症例に限る。RAEB、RAEB-tに対して化学療法を行って白血病細胞が十分に減少した症例も、詳細の基準を満たせば適格とする。
*RA=refractory anemia, RARS=RA with ringed sideloblast, RAEB=RA withexcess of blast

4-1-2 仮登録時の患者の年齢が50歳以上70歳未満の者。

4-1-3 健康状態が良好であるHLA一致同胞ドナーを有する者。健康状態良好とは以下の疾患を有さないことと定義する。ドナーの年齢上限については、各施設の倫理委員会もしくはそれに準ずる機関の定めた制限に従う。
(a) 自己免疫疾患(膠原病を含む)の現有及び既往
(b) 静脈血栓症、動脈硬化性疾患の現有
(c) 虚血性心疾患、脳血管病変の現有及び既往
(d) 悪性腫瘍、過去の抗癌剤の投与歴、過去の放射線治療歴
(e) 薬物治療を必要とする高血圧、糖尿病の現有
(f) 白血球、ヘモグロビン、血小板値の異常
(g) その他主治医が末梢血幹細胞採取に不適当と考える健康状態
ただしドナーから必要量の末梢血幹細胞が得られなかった場合は、仮登録後不適格症例と判断し、解析から除外する。

4-2 除外基準
以下に示す重篤な臓器機能障害を持つ者(ドナーも含む)は登録時に不適格と判断し除外する。
(a) ECOGのperformance statusが2以上(付表2参照)
(b) 心エコーにて、安静時の心駆出率が50%未満
(c) 酸素非投与での動脈血液中酸素飽和度が93%未満
(d) 血清クレアチニン値が2.0 mg/dl以上
(e) 総ビリルビン値が2.0 mg/dl以上あるいはGOT値が正常上限の4倍以上
(f) HIV抗体が陽性
(g) 活動性の感染症を有する
(h) 前処置療法に用いる薬剤、ならびに急性GVHD予防に用いる薬剤に対し過敏症の既往のある患者

GVHD予防方法の割付
GVHD予防方法はシクロスポリン単剤による方法とシクロスポリンとメトトレキサートを併用した方法の各群に30症例の無作為な割付を行う。
なお、2群間の比較可能性を維持するため、基礎疾患(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候)、施設、年齢(50~59歳、60~69歳)、性別(男、女)を割り付け因子として動的な割付を行う。

GVHDの予防
1 いずれの群もシクロスポリン(CSA)の投与を行う。CSA 3 mg/kg/dayの持続投与をday-1から開始する。
2 Day 28を過ぎた時点でGVHDの症状がなければ10%/週を目安に減量し、day 100頃までに中止する。
3 シクロスポリンとメトトレキサートの併用群では、メトトレキサート 10 mg/m2をday 1に、7 mg/m2をday 3およびday 6に、それぞれ緩徐静注あるいは30分で点滴静注する。ロイコボリンによる救援療法は併用しない。

付表1 急性白血病の第一寛解期移植の適応について
急性リンパ性白血病については、高齢者における化学療法単独での治療成績は極めて不良であり、全症例が第一寛解期での移植適応と考えられる。急性骨髄性白血病については確固たる基準はないが、本研究ではJapan Adult Leukemia Study Groupで採用しているスコアリングに基づき、t(8;21)、t(15;17)、inv(16)の3つの染色体異常のどれかを持つ症例以外の第一寛解期症例は全て対象とする。またこれらの染色体異常を持つ症例においても、以下の条件に一つ以上該当する場合には第一寛解期の移植適応と考える。
・白血病細胞のmyeloperoxidase陽性率が50%以下
・初発時白血球が20,000 /μl 以上
・FAB subtypeがM0,M6,M7
・寛解導入までに2コース以上を必要とした。

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/mukin/mini-prot.htm

悪性リンパ腫の診断と治療 2004年

悪性リンパ腫

概念:
リンパ節の構成細胞に由来する造血器悪性腫瘍である。 リンパ節腫脹による局所症状と、発熱、体重減少、寝汗、皮疹などの全身症状を生じうる。 主たる悪性リンパ腫は、大きくホジキン病(Hodgkin disease)と、非ホジキンリンパ腫(Non-Hodgkin lymphoma)に分類される。 

検査:
問診、身体所見から悪性リンパ腫が疑われた場合、診断のためリンパ節などの病変組織を生検し病理組織診断をつける必要がある(生検標本処理の具体的な方法については、7.2を参照)。 生検部位に応じて、当該科(耳鼻科、形成外科、外科など)に依頼。

血算: 赤血球、Hb、白血球、分画、血小板。 血液生化学、免疫検査: 総蛋白、蛋白分画、ALP、LDH、ALP、γ-GTP、CRP、赤沈、HTLV-1、HIV、EBV、自己免疫現象の存在が疑われるときは、自己抗体など自己免疫疾患に準じた検査を行い検索する。 β2ミクログロブリン、チミジンキナーゼ、可溶性IL-2受容体などをチェックする。 

骨髄: 骨髄への腫瘍細胞浸潤のチェックのため施行する。 生検を含め、両側の腸骨から施行するのが望ましい。 全身病変評価: 全身CT、ガリウムシンチ、PETを行う。 また、耳鼻科領域のリンパ節についても病変の存在が疑われた場合、耳鼻科で評価していただく。

診断基準:
病理組織診断で行う。 基本的にはWHO分類を使用。

病期分類:
基本的にはCostswoldsの分類を使用。 

治療:
リンパ腫の治療は、組織診断、病期などにより多彩である。

ホジキン病: 早期ホジキンリンパ腫(IA、IIA、巨大病変なし)に対してはABVD4コース+放射線治療を施行する。 初発進行期(IB、IIB、III、IV期)に対してはABVD療法6~8コースを標準とする。 残存病変、治療前の巨大病変に対しては放射線治療を施行する。

非ホジキンリンパ腫:
低悪性度リンパ腫;(濾胞性リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、濾胞辺縁帯B細胞性リンパ腫、small lymphocytic lymphoma)(ここでは、濾胞性リンパ腫の治療を中心に記載)

Ann Arbor I, II期: involved field radiotherapyによりmeidan survival 10年が期待できる。 bulky mass, B症状、LDH 上昇などの予後不良因子がある場合ではStage III-IVと同様の治療が必要となる。

Ann Arbor III-IV期: 濾胞性リンパ腫は診断時、80%はstage III-IVである。 化学療法のみでの治癒は困難であり、無症状、高齢、合併症あり、自然退縮傾向を認めたことがあるなどの一定の基準を満たした症例をwatchful waitingで経過を見ることがある。上記以外では、CD20陽性のものについては抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ) と化学療法との併用(CHOP療法、COP療法、EP療法など)で治療を行う。 

治療初期に腫瘍総量が著しく多く、rituximabでinfusion reactionを生じる危険が高い場合には、1-2コース目をCHOP療法で施行し、その後R-CHOP療法を施行。 

また、リツキシマブを用いたin-vivo purged ASCT(自家造血細胞移植)なども検討する。 

しかし、これらの化学療法、抗体療法でも多くの患者様は、治癒困難と考えられる。 

唯一、治癒が見込まれる治療として同種移植があるが、高い治療関連毒性を伴い、若く、全身状態が良い症例や、兄弟間でHLAが一致している症例などが適応となる。また、

近年、骨髄非破壊的造血細胞移植(ミニ移植)により、治療関連毒性を軽減する試みがあり、治療の選択肢のひとつになっている。 当科では、他の治療によっても難治で治療困難な患者様を対象としてミニ移植を施行する臨床研究を行う予定である。

***マントル細胞リンパ腫(MCL)
 MCLはmedian surivivalが3~5年のmost incurable lymphomaである。Working Formulationでは低悪性度リンパ腫に分類されているが、他のindolent lymphomaと比較して明らかに予後不良であり、CHOP療法に対しても難反応である。65歳以下の症例に対しては、Khouri et al.が報告したHyper-CVAD+HD-MTX療法(J Clin Oncol 1998; 16: 3803)に準じて、自家末梢血幹細胞移植を併用した強力な多剤併用化学療法によって治療している。 一方、自家移植の適応がない高齢者などにはR-CHOPなどの化学療法を施行する。

中悪性度リンパ腫;
限局期(病期I、病期IIAのうち病変部が一照射野に入るもの。 ただし、10cm以上のbulky massを有するものは除外する。):
 化学療法と局所放射線療法の併用療法を標準治療とする。 CHOP療法 (21日) を3コース施行後、放射線治療を開始する。照射量は原則で1日線量が1.8Gy~2.0Gyで、総線量は40~55Gyである。

進行期(限局期に分類されないもの):
 1993年に発表されたInternational prognosis index(IPI)による層別化が、完全
寛解率と生存率を良く予測出来、risk adjusted therapyが標準治療法となっている。

IPI Low/Low Intermediate
CHOP療法6~8コースが標準的治療法であったが、CD20陽性のものに対してはrituximabを併用するR-CHOP療法を標準治療としている。

IPI High intermediate/High
HI/H群に対するCHOP療法の効果は限られており、標準治療は未確定である。 若く、全身状態の良好なものについては、first lineの治療として、自家造血細胞移植を考慮する。 移植前の化学療法は、通常のCHOP療法を6-8コース施行後おこなうregimenやhigh-doseの化学療法を短期間に施行した後に行うregimenなどがある。 また、腫瘍細胞にCD20陽性が場合は、R-CHOPを行う。

高悪性度リンパ腫;
バーキットリンパ腫・バーキット様リンパ腫; 化学療法に対する感受性が高く、短期集中型の化学療法で治癒が期待できる。現在、Magrathらが報告したCODOX-M/IVAC療法(J Clin Oncol 14: 925-934, 1996)を施行している。

リンパ芽球性リンパ腫; 日本ではまれなリンパ腫でまとまった治療成績がないが、現在はALLに対して施行されるような治療強度を高めた多剤併用化学療法に中枢神経予防を併用する治療法を施行している。

*** バーキットリンパ腫・バーキット様リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫のいずれも、化学療法に対する感受性は高いものの再発率も高く、症例により、同種移植を考慮する。

■ 抗体療法での新しい試み 【続き】

■ 抗体療法での新しい試み

堀田 他に最近の動きとして治療的対応としておもしろいことを何か耳にされましたか。

飛内 抗体療法では,キメラ型抗体の他にアイソトープをつけたモノクローナル抗体があります。キメラ型抗体よりも抗腫瘍効果が高いとの報告があり,aggressive Bリンパ腫に対してより高い有効性を発揮することが期待されています。日本でも臨床導入のための試験の準備を進めています。

堀田 実施が遅れている理由に放射線を使うということもありますね。

岡本 それには特別な病室が必要ですか。イットリウムは要らないんですよね。

飛内 イットリウムの場合は放出する放射線のほとんどがβ線のため,アメリカでは外来で注射可能です。日本でも特殊な設備が要らないと考えています。

堀田 骨髄抑制がけっこう出るという話ですね。

飛内 アイソトープをつけるとどうしても骨髄抑制が出てきますね。

 話が前後しますが,キメラ型抗体療法のトピックスとして,aggressive Bリンパ腫に対するフランスのグループのスタディで,3割ぐらいの患者に奏効が得られたとする結果が出ています。日本でもいま同様のスタディを行っていますが,奏効例をわれわれの施設でも経験しています。aggressive Bリンパ種の未治療例を対象に,CHOP療法などの化学療法との併用の有効性を検証するためのrandomized
studyが欧米で少なくとも4本走っています。よい結果が得られれば,aggressive Bリンパ腫のstate of the art therapyが変わる可能性があります。

堀田 そういう流れになっていく可能性が高いですね。いまフランスやアメリカでは普通の保険診療で使っています。日本では少し遅れているという感じがします。

■ 遺伝子治療の可能性 【続き】

■ 遺伝子治療の可能性

堀田 最近,表面マーカーによる診断がすすみ,疾患単位が独立してきたので,今度はそれに対して特定の治療が生み出せるかという段階になっていきます。

 森先生から見て,これまでと違った発想の治療にはどんなものがありますか。

森 うまくいっているかどうかはわかりませんが,病態の抑制という点でp53遺伝子は影響力が大きいです。トライアルが他の領域でいろいろ行われていていますので,それでいい結果が出れば,遺伝子治療はたいへん興味があります。

 p53はメジャーなものの1つですが,そうしたものがあとどれぐらいあるのか。これはわれわれの守備範囲ですが,そのカタログをつくるのにあと5~10年かかると思います。

 私は臨床家ではありませんので,臨床の先生方のいろいろやってみてという苦労を味わわなくて,非常にピュアに考えてしまい,その点で少し感覚がずれてしまいますが,治せる治療法をたいへん期待しています。

堀田 最近,BCL-2のアンチセンスを治療に使おうという動きがありますね。日本でもやるかという話があるようです。ところが,BCL-2の再構成のあるものを対象というわけではなくて,それが免疫染色で高ければいいという感じになるようです。ですから,固形癌でも有効性があるという話を聞きました。

p80はどうなんですか。

森 p80を含めたキメラ蛋白質は腫瘍特異性が最も高いグループですから,時間的な余裕があったら,本当にやりたいと思います。BCL-2や,c-mycは他の細胞でもあるものなので,狙い目としてはいいと思いますが,手出しはしていません。

■ 濾胞性リンパ腫の治療選択肢は増えた 【続き】

■ 濾胞性リンパ腫の治療選択肢は増えた

堀田 まだ経験例がそんなに蓄積されていませんが,期待できる領域ということで,たいへん注目を集めています。日本でもパイロット的なスタディが少しずつ出てきております。これがスタンダードの治療になっていくのかどうか,その見通しはどうでしょう。

飛内 われわれの施設でも移植グループがミニ移植の臨床試験を行っていますが,原則として兄弟にHLAの適合したドナーがいる場合に限定されています。年齢は60歳代ぐらいまでに対象を広げられるかもしれませんが,同胞ドナーの存在が前提条件となり,どうしてもある一定の患者に限定された治療になりますから,比較試験を組むのは難しいでしょう。

 しかし,進行期濾胞性リンパ腫はこれまであらゆる治療手段をもってしても治癒せず,再発・再燃を繰り返す疾患でしたが,ミニ移植の導入は,患者にとっては有力な選択肢が増えたことになります。この治療法を期待されて国立がんセンター中央病院を受診される患者さんも最近多くなってきました。

 標準的な治療になるかどうかはまだわからないとしても,モノクローナル抗体も有力な1つの治療手段だし,ミニ移植もあるし,あるいはフルダラビンやクラドリビンといったプリン誘導体もあります。インターフェロンも日本で臨床試験が開始されました。濾胞性リンパ腫患者にとっては,いろいろな治療選択肢が出てきたということです。

岡本 骨髄バンクのドナーを使うには倫理的に問題があると思いますが,将来的にはおそらく骨髄を用いても問題なく生着が得られるようになると思います。MD.Andersonのデータがそうです。

 low grade lymphomaの自家移植にはいいデータがありませんが,そのなかでDana Farberのデータは興味深いです。彼らは診断前にminimal tumor stateにしておいて,骨髄から腫瘍細胞をパージングして移植しています。全体の成績を見ると8年生存率が67パーセントで,決して悪くないんです。さらにおもしろいデータは,PCRが陰性になる症例では非常に生存率がよいことです。

 自家移植にPBSCTを使えば安全性は高まりますし,抗CD20抗体をその前後に用いることによって,成績向上を期待できると思います。抗CD20抗体は骨髄抑制が全くない薬ですから夢は広がりますが,有効性を確かめる臨床試験は難しいと思います。

飛内 濾胞性リンパ腫に対する自家移植はわれわれの施設でいまもやっています。最近はCD34 positive selectionのスタディの対象にしています。濾胞性リンパ腫は治療の選択肢がずいぶん増えてきたといえます。

堀田 この数年でものすごい進歩ですね。いままでは何をやってもむだな感じで,何もしなくてもいいのではないかというところから,advancedになる前から積極的に治療をする,しかも治療法が選択できるという点で,非常にホットな領域ですね。

岡本 治療する側は早くエビデンスをつくらないと,選択がたいへんです。

飛内 私たちのところでは,患者にその時点で施行中のスタディの話をしていますが,有効な新治療法が出そろってくれば,患者さんが選択できる時代になるかもしれません。

堀田 日本では欧米と比べると,濾胞性リンパ腫がだんだん増えてきたとはいえ,多いタイプのものではないので,いろいろ切り分けてやっていると,大きなスタディとしにくいですね。そこが日本の現状かと思います。

飛内 indolent B-lymphomaの初回治療としてIDEC-C2B8とCHOPを併用したrandomized第二相試験を70例弱を目標にして施行していますが,1999年9月に症例登録を開始して1年以内に症例登録が終わりそうな状況です。日本でも臨床試験の対象となる濾胞性リンパ腫患者は少なくないと思います。

堀田 新しく発生というのではなくて,いままで治療せずに見ていたという例が一気に入ってきますからね。

飛内 患者の中にはモノクローナル抗体のスタディが始まるまで待っていた人もいました。待てる病気ですから。

堀田 興味があれば,集まってくるということですから,スタディの魅力はかなり大きいということです。

飛内 医者も魅力を感じて患者を紹介するようです。